24 港町
「もっと早く知り合いになりたかったなあ、って」
「僕と?」
「うん」
「そっかー、でも……あ、ついた」
知り合い。まあ、知り合いか。同じ学校だけれど、クラスも違うし、実質、今日はじめて会ったようなものだった。
浅間さんという名前はうっすら覚えていたけれど、山田さんのことは知らなかった。もちろん名前が変わったことも。
山田さんのキャスターを勝手に抱えてきたから山田さんがすぐ後ろをついてきた。
「後は大丈夫、自分で持つから。ありがとう」
山田さんの持ち物が僕の手を離れる。ガラガラと音を立てながら山田さんは荷物を引っ張る。
肩を軽く叩かれて後ろを振り返ると桜井先生がいて、僕に二人分の切符を渡して来る。
「ちょうどもうすぐホテルで早めの夕食だから。どうせなら海側歩いて行こうか」
改札を出ると小綺麗な駅舎があった。ホテルの方角に向かってガラガラと山田さんがキャスターの行き先を変える。桜井先生は僕たちの少し後ろを歩いてくる。気が利きすぎて気持ち悪い。
少しいくと漁港が見えた。浜のない海に来たのは久しぶりだ。囲われた湾は湖のように穏やかだった。静かな港を、山田さんのキャスターだけがガリガリと音を立てて進む。
「下ガタガタするけど、いい景色だね」
「ほんと僕が持とうか」
「大丈夫」
山田さんはしばらく黙って歩いていたが、口を開いた。
「あの、さっき、電車降りるとき」
「うん」
「言いかけてたの、なんだった?」
「なんだっけ、忘れた」
「えー」
本当に忘れていた。山田さんが海側を歩いていたから、海を見たり手前の山田さんを見たりしていた。山田さんは言いづらそうにボソボソと言う。
「私が、もっと早く知り合いになりたかった、って言ったときの」
「あー」
そういうのが気になるんだ。ここは最高の返しをしなければいけない。
「僕も山田さんともっと早く知り合いたかったよ」
「そう」
「でも、知り合いかーって」
山田さんが僕を見る。
「知り合い程度じゃなくて、もっと早く友だちになりたかったかな」
「友だちかー」
「えっ」
山田さんは足を早めてさっさと前を行く。あれ、間違えた?
「ちょっと待って、山田さん」
僕は焦って山田さんを追いかける。追いつくと山田さんは「ちょっと真似してみた」と言って笑った。
何それ、と思った。僕はもう少しで軽はずみに告白してしまうところだったのに。失敗したら今日の夜が地獄だった。するにしても明日かな。言い逃げはずるいだろうか。
ホテルの敷地に入ったので入り口を探す。少し後ろを振り返ると桜井先生が自動ドアを指差した。
自動ドアを入ると、長い廊下のストロークがあった。
「着いたね」
「ここまでありがとう」
「ううん、後でも声かけるから」
なんて言ってると視線を感じた。男子の小集団がこちらを見ている。自分と同じ制服だ。5、6人いるうちの一人に見覚えがある。
あれはどのクラスの人だったかな? そう考えてサッカー部の主将だと思い至る。じゃあ山田さんと同じ2組だ。いいなあ。
目があったのでにっこり笑って、それから僕はまた山田さんに目線を戻した。




