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24/50

24 港町


「もっと早く知り合いになりたかったなあ、って」

「僕と?」

「うん」

「そっかー、でも……あ、ついた」


 知り合い。まあ、知り合いか。同じ学校だけれど、クラスも違うし、実質、今日はじめて会ったようなものだった。

 浅間さんという名前はうっすら覚えていたけれど、山田さんのことは知らなかった。もちろん名前が変わったことも。


 山田さんのキャスターを勝手に抱えてきたから山田さんがすぐ後ろをついてきた。


「後は大丈夫、自分で持つから。ありがとう」


 山田さんの持ち物が僕の手を離れる。ガラガラと音を立てながら山田さんは荷物を引っ張る。


 肩を軽く叩かれて後ろを振り返ると桜井先生がいて、僕に二人分の切符を渡して来る。


「ちょうどもうすぐホテルで早めの夕食だから。どうせなら海側歩いて行こうか」


 改札を出ると小綺麗な駅舎があった。ホテルの方角に向かってガラガラと山田さんがキャスターの行き先を変える。桜井先生は僕たちの少し後ろを歩いてくる。気が利きすぎて気持ち悪い。


 少しいくと漁港が見えた。浜のない海に来たのは久しぶりだ。囲われた湾は湖のように穏やかだった。静かな港を、山田さんのキャスターだけがガリガリと音を立てて進む。


「下ガタガタするけど、いい景色だね」

「ほんと僕が持とうか」

「大丈夫」


 山田さんはしばらく黙って歩いていたが、口を開いた。


「あの、さっき、電車降りるとき」

「うん」

「言いかけてたの、なんだった?」

「なんだっけ、忘れた」

「えー」


 本当に忘れていた。山田さんが海側を歩いていたから、海を見たり手前の山田さんを見たりしていた。山田さんは言いづらそうにボソボソと言う。


「私が、もっと早く知り合いになりたかった、って言ったときの」

「あー」


 そういうのが気になるんだ。ここは最高の返しをしなければいけない。


「僕も山田さんともっと早く知り合いたかったよ」

「そう」

「でも、知り合いかーって」


 山田さんが僕を見る。


「知り合い程度じゃなくて、もっと早く友だちになりたかったかな」

「友だちかー」

「えっ」


 山田さんは足を早めてさっさと前を行く。あれ、間違えた?


「ちょっと待って、山田さん」


 僕は焦って山田さんを追いかける。追いつくと山田さんは「ちょっと真似してみた」と言って笑った。


 何それ、と思った。僕はもう少しで軽はずみに告白してしまうところだったのに。失敗したら今日の夜が地獄だった。するにしても明日かな。言い逃げはずるいだろうか。

 ホテルの敷地に入ったので入り口を探す。少し後ろを振り返ると桜井先生が自動ドアを指差した。


 自動ドアを入ると、長い廊下のストロークがあった。


「着いたね」

「ここまでありがとう」

「ううん、後でも声かけるから」


 なんて言ってると視線を感じた。男子の小集団がこちらを見ている。自分と同じ制服だ。5、6人いるうちの一人に見覚えがある。

 あれはどのクラスの人だったかな? そう考えてサッカー部の主将だと思い至る。じゃあ山田さんと同じ2組だ。いいなあ。

 目があったのでにっこり笑って、それから僕はまた山田さんに目線を戻した。



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