23 函館駅
動画をもらってしまった。
「どんどん」というかけ声でほんとにどんどん、おそばを食べている樹神くん。食べ方がとても規則的で、そういう作業をしているようだった。実際、リズムよく食べていくのがコツらしい。
「私も頑張ってもっと食べれば良かったー」
「悔い残ってるの?」
「残ってる」
「じゃあ、また来ようよ」
「おお……」
どう返すのが正解なのかわからなくて、変な返事をしてしまった。こういうのはその場のノリで「うん、来よう来よう!」みたいに言うのだろうか。でも盛岡は岩手県だしね? 気軽に行くとこじゃないよね? それも含めての冗談なのだろうか。わからない。
というかここ数時間の樹神くんがよくわからない。
戸惑う私に樹神くんが補足する。
「神奈川にもあるみたい。わんこそば」
「ああ、あるんだ」
神奈川県にもあるんだ。首都圏だ。そうか、まずは行こうって言えば良かったんだ。実際行けるもんならまた行きたいもんね。それから岩手県だけど?って言って、神奈川にもあるよ?って言われて、じゃあ行けなくないね、って話をまとめて。
もう一度わんこそばについて会話のシミュレーションをしていると、
「山田さんって何部なの?」
と話が変わってしまった。私は会話が生き物であることを痛感する。
「英検部」
「そんなのあったっけ」
「英語部が廃部の危機で。名前変えたらめちゃくちゃ人が来た」
「ははは!……でもそれ届け出してる?」
樹神くんは急に事務局の顔になった。
「あ、修旅終わったらすぐに出させます」
「よろしくお願いしますね」
生徒会の人ぽい雰囲気の樹神くんも良かった。朝の樹神くんはこんな感じだった。振り子の幅の広さを体感するほどに、いちいちときめいてしまう。やっぱりときめいているよね、これ。
「樹神くんは何部?」
「テニス部。硬式のほう」
「外まで行くほうだ」
「そうそう」
「なんか上手そう」
「ふつうかな。それに今は生徒会があるから休部してる」
軟式庭球部のほうはグラウンドの横にクレイコートがあるんだけど、硬式庭球部は外部のコートを借りている。だから見かけたことがなかったんだ。
さらに選抜クラスは上の学年の階にあったりして、私は樹神くんをほとんど認知していなかった。2年の終わりに彼は生徒会長に決まったけど、そのころ私は三者面談でクラス落ちを事前通告されていて、それどころじゃなかった。学年末の学校の記憶がほとんどない。
この人、転校しちゃうのかあ。もっと早く知り合いになりたかったなあ。
「山田さんってよく考えごとしてるよね」
「そうかな?そうかも」
すぐ脳内にトリップしちゃって申し訳ない。
「今何考えてたの」
「もっと早く知り合いになりたかったなあ、って」
「僕と?」
「うん」
「そっかー、でも……あ、ついた」
何を言おうとしたんだろう。なんてまた考えていると、樹神くんは「持つね」と言ってそっと私のキャスターバッグを手にして、はこだてライナーを降りてしまった。




