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23/50

23 函館駅


 動画をもらってしまった。

 「どんどん」というかけ声でほんとにどんどん、おそばを食べている樹神くん。食べ方がとても規則的で、そういう作業をしているようだった。実際、リズムよく食べていくのがコツらしい。


「私も頑張ってもっと食べれば良かったー」

「悔い残ってるの?」

「残ってる」

「じゃあ、また来ようよ」

「おお……」


 どう返すのが正解なのかわからなくて、変な返事をしてしまった。こういうのはその場のノリで「うん、来よう来よう!」みたいに言うのだろうか。でも盛岡は岩手県だしね? 気軽に行くとこじゃないよね? それも含めての冗談なのだろうか。わからない。

 というかここ数時間の樹神くんがよくわからない。


 戸惑う私に樹神くんが補足する。


「神奈川にもあるみたい。わんこそば」

「ああ、あるんだ」


 神奈川県にもあるんだ。首都圏だ。そうか、まずは行こうって言えば良かったんだ。実際行けるもんならまた行きたいもんね。それから岩手県だけど?って言って、神奈川にもあるよ?って言われて、じゃあ行けなくないね、って話をまとめて。

 もう一度わんこそばについて会話のシミュレーションをしていると、


「山田さんって何部なの?」


と話が変わってしまった。私は会話が生き物であることを痛感する。


「英検部」

「そんなのあったっけ」

「英語部が廃部の危機で。名前変えたらめちゃくちゃ人が来た」

「ははは!……でもそれ届け出してる?」


 樹神くんは急に事務局の顔になった。


「あ、修旅終わったらすぐに出させます」

「よろしくお願いしますね」


 生徒会の人ぽい雰囲気の樹神くんも良かった。朝の樹神くんはこんな感じだった。振り子の幅の広さを体感するほどに、いちいちときめいてしまう。やっぱりときめいているよね、これ。


「樹神くんは何部?」

「テニス部。硬式のほう」

「外まで行くほうだ」

「そうそう」

「なんか上手そう」

「ふつうかな。それに今は生徒会があるから休部してる」


 軟式庭球部のほうはグラウンドの横にクレイコートがあるんだけど、硬式庭球部は外部のコートを借りている。だから見かけたことがなかったんだ。


 さらに選抜クラスは上の学年の階にあったりして、私は樹神くんをほとんど認知していなかった。2年の終わりに彼は生徒会長に決まったけど、そのころ私は三者面談でクラス落ちを事前通告されていて、それどころじゃなかった。学年末の学校の記憶がほとんどない。


 この人、転校しちゃうのかあ。もっと早く知り合いになりたかったなあ。


「山田さんってよく考えごとしてるよね」

「そうかな?そうかも」


 すぐ脳内にトリップしちゃって申し訳ない。


「今何考えてたの」

「もっと早く知り合いになりたかったなあ、って」

「僕と?」

「うん」

「そっかー、でも……あ、ついた」


 何を言おうとしたんだろう。なんてまた考えていると、樹神くんは「持つね」と言ってそっと私のキャスターバッグを手にして、はこだてライナーを降りてしまった。





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