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22 新函館北斗


 今日が月曜日だから、火曜の夜か水曜日あたりかな、僕が帰るのは。また新幹線に乗るから、青函トンネル通過中のピン留めが撮れたら、山田さんに送ってあげよう。


 ◇


 北海道新幹線は、終点の新函館北斗駅に到着した。


 最近、延線したばかりの北陸新幹線の敦賀駅になんとなく雰囲気が似ているなと思った。建物は完成しているのに、駅の空気感はまだ出来上がっていない中継地点の主要駅というところが。

 

「すぐに乗り換えだから」


と桜井先生が僕らを急かす。僕は上の棚から山田さんのキャスターを下ろす。それを受け取ろうとした山田さんに、


「急ぐみたいだから僕が持っていくね」


と言って彼女の荷物を確保した。山田さんはおずおずとお礼を言う。


 とにかく今は山田さんのありがとうを集めて、それから接触を増やさないと。修旅もクラスが違うと食事や自由時間が分かれていたような気がする。調べるか。実行委員会の誰が全組のタイムテーブル持っていたっけ。


「なんか急にイキイキしてるね、樹神(こだま)くん」

「そう見える?」

「目がギラギラしてる」

「ギラギラ!はは!」


 はこだてライナーに乗り換えて、そこから函館駅までは20分くらいだった。

 僕は今度は素直に山田さんのすぐとなりに座って、あれこれと話しかける。桜井先生は少し離れたところでスマホに何か入力していて、おそらく先生たちと連絡をとっている。


「樹神くん」

「うん何」

「函館までいっしょに来てくれてありがとう」

「うん」


 僕は心があったかくなった。あのとき、行くって流れになって良かったな。僕は気になる女の子の隣で、ちょっと浮かれてた。


「大宮で樹神くんさ」

「うん」

「すごいめんどくさそうだった」

「そうだっけ」

「うん、すごくいやーな顔してた」


 そう言って山田さんはうんざりしたような顔を作る。僕の顔真似だ。嘘だ、僕ほんとにそんな顔してたの?


「よく考えたら、いや考えなくても函館まで付き合う義理ないよね」


 大宮での自分をだんだん思い出して、自己嫌悪に陥る。


「最初はさ、樹神くんも遅刻したんだと思ってたんだ」

「あー……」

「でもきっと行く予定じゃ無かったんだよね」

「朝はね」


 僕はこれはすぐに訂正しないといけないと悟った。しかも強めに。


「今は来れて良かったと思ってるよ。お願いされて良かった」


 山田さんの横顔をじっと見つめる。けど目は合わない。


「山田さんとも仲良くなれたし」

「えっ」

「山田さんが仲良くなりましたって桜井先生に言ったじゃない」

「言った、言ったね」


 山田さんはすでに涼しい秋の始めの北海道で、手をぱたぱたとして顔を仰ぐ。だけど、ちっともこっちを見ない。


「今いっしょに写真撮らない?」

「ひぇっ」


 言葉とは裏腹に山田さんは少しこっちを見て頷いた。


「思い出に。ホテルで合流してからだと変に冷やかしてくるのいそうだから」


 山田さんはうんうんと黙って頷いた。


 せっかくならはやぶさの前とかで撮れば良かった。はこだてライナーという立派な名前がついているけれど、この電車はずいぶん普通列車のいでたちだった。でもなんでもない場所で写真を撮るのも、案外いいものだ。


 僕はスマホを少し上に掲げる。山田さんが可愛く映るように角度に気をつける。山田さんは何度も前髪を触って整えていた。これは脈ありだろうか。朝、桜井先生の前でもこんな仕草をしていた気がする。


「何枚か撮るね。気に入らないのは消すから」


 そう言ってから連続で何枚も撮る。それから写真フォルダを広げて、山田さんに選んでもらった。それをLINEで送る。他は削除したけど、勿体ないから僕は後で復活させてしまうかもしれない。


「ありがとう」


 山田さんがスマホをじっと眺めている。


「あの、わんこそばの動画も、貰ってもいいものでしょうか」

「え、あの食べてるやつ?」

「うん、そう」

「全然いいよー」


 そう言って動画も送る。重いのか進捗を示すゲージはまだ半分もいかない。


「わんこそば、桜井先生も撮ってたよね。動画もらってこようか」

「いや、いい、大丈夫」


 つばめちゃんや奥さんの話なんかを聞いて、言いづらいのかなと思ったけど、本人がいいっていうならそれに越したことはない。僕は少し浮かした腰を元に戻した。


「あ、送信完了した」

「ありがとう」


 山田さんは手元で僕のわんこそば動画を見ているようだった。山田さんのフォルダに僕のデータが増えて良かった。

 山田さんはすぐにリタイアしてしまったから、わんこそばの写真を撮ってあげられなくて悪かったな、と僕は思った。



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