18 トラベルミン
「俺が真ん中はないでしょー」
桜井先生が席順をあれこれ言っている。もうすぐ、盛岡駅ホームに、はやぶさが入線する。指定席の号車位置にお客さんが並び始めた。盛岡から新青森、そして終点の新函館北斗まで、僕たちはこれに乗っていく。
「樹神くんが真ん中が妥当かな」
「でも僕、酔い易いんで窓側がいいです」
「となると私が真ん中ですか」
山田さんは自然と顔が笑んで、ほくほくしている。先生は僕を見て首を傾げている。そして「飲み物を買っとこう」などと言って、自販機の前まで僕の腕を引っ張っていく。
「なんで」
「そのほうが山田さん楽しいかなって」
「えー」
なんだこの人、いろいろ察しが良すぎないかと思いながら僕も普通に答えてしまう。
「山田さん無防備なんで、奥だとちょっと」
「あー……」
「あの、先生は大丈夫なんですか」
桜井先生はにっこり笑って、力強く頷く。
「うん、俺の好み年上だし」
「もしかして奥さんも年上ですか」
「うん、7歳上」
意外だった。でも正直それを聞いて安堵した。
「それに娘持ったらね、保護者目線になっちゃう。そういうのないよ〜」
「うちにも妹いますけど」
「……」
桜井先生は困った顔になった。
「というか樹神くん、急にすごいこと言うようになったね」
「もう時間ないな、と思ったらなんか吹っ切れちゃって」
「そっかー」
先生は僕の肩甲骨のあたりをとんとんする。ちょっとやめてくださいよ、そういうことされると、泣きそうなんだけど。
「何を男同士でいちゃいちゃしてるんですか、もう電車来ますよ」
山田さんが呼びにきた。先生が慌ててお茶のペットボトルを3本買う。
三人席の席順は窓際が僕、真ん中が山田さん、通路側が先生になった。先生は通路側の肘かけに重心をかけている。それを見て僕も少し窓にもたれかかる。
「あれ樹神くん、具合悪い? 朝もらった酔い止めまだあるよ」
そう言って山田さんは僕にトラベルミンを渡してくる。そうだった、これをあげたとき山田さんはもっとわかりやすく桜井先生を見つめていた。ぽおっとした感じで。
そりゃいきなりあんないい男が家にピンポンしてきたらそうなるのかもな。
窓にもたれたまま山田さんからトラベルミンを再回収すると、僕は開封してそれを口に入れる。
僕はどのタイミングで山田さんが気になったんだろう。まさか最初から? だからあんな苛ついてしまったとか? いや、それはないはず。めんどくさいなと思ってたし、合わない感じの人だと思った気がするけど。
始まりがわからない。
考え事をしながら口の中でカラコロと酔い止め薬を転がしてると、心配してくれたのか少し覗き込んできた山田さんと目が合ったので、僕は少し口角を上げた。
そしたら、山田さんが少し赤くなったんだ。
あれ、いけるのか?
遠距離かあ、僕、貯金どのくらいあったっけ?と先走って考えながら、もう一度目が合わないかなと思ったけど、山田さんは気まずいのかスマホを開いてしまった。桜井先生、あれ取り上げてくれないかな。
転校する理由を知っても嫌われなかったら、ちょっと頑張ってみようかな? なんて、ドロップを溶かしながら、僕は計画を立て始めた。




