17 岩手銀行 赤レンガ館(3)
ホールまで降りて端のほうのベンチに座る。
桜井先生はどこにいるのかなと見回したけどいなかった。そんなに大きな施設じゃないのに。どこに行ったんだろう。
隣には樹神くんが少し背中を丸めて座っている。
私は樹神くんを、壇上だとか、校内放送だとか、体育祭の開会式だとかでしか見たことが無かった。同じ中学生なんだけど、祝辞とかスピーチとかまるで大人みたいで、成績も優秀で、住む世界が違う人のように感じていた。
見た目も爽やかでなかなかいいんだけど、彼に対して美醜をジャッジすること自体が、汚れた思想のような雰囲気で、あまり話題には上らなかった。
うまく言えないんだけど、樹神くんには隙がないんだと思う。
私のいる2組に中学サッカー部の主将がいるのだけど、あの人なんか隙だらけで、そんなにいいかな?って感じがするけど、けっこうモテてる。
私は教室に一人でいるから声をかけやすいのか、他クラスの女子から「呼び出し」の中継を頼まれることもあった。
それで私が知らん女子に頼まれて、その主将に声をかけると「なんだ山田さんじゃないんだ、残念」なんてその人、土岐くんは言うのである。
そんなこと言われるとこっちは一日、そのクラスメイトのことを考えちゃったりするんだけど、翌日学校に行くと、昨日呼び出ししていた子とふつうに付き合っていたりした。とにかく思わせぶりなやつなんだ。
2組の女子は変にねっとりしたコミュニケーションを取る子が多いんだけど、もしかしたらあのサッカー部主将がじつは場を支配しているのかもしれないな。
ならばイケメンには、イケメンを。いや正しくいうと雰囲気イケメンには、天然物イケメンを。土岐くんに桜井先生をぶつければ、2組は再起できるのではないか。
「今なに考えてるの」
「あー……クラスの班に戻るのやだなあって」
「はは、僕も」
「私、クラスでぼっちなんだけど、それ桜井先生とか樹神くんに見られるの嫌だなあって」
「僕も入ってるんだ」
「そりゃあ、そうでしょう」
そういうと樹神くんは上機嫌になった。まあ、いつも人に囲まれている人間にはわからないんだろう。ニヤニヤしてマウントはやめてほしい。
「じゃあ、空き時間とか、何この時間みたいなとき、山田さんのところに行ってもいい?」
「えっ!!」
「なんか適当な係とか用事ぽい感じで声かけようか」
「なるほど! それは助かるかも架空の仕事」
さすが生徒会長、機転が効く。最初、個人的に誘われたのかと思ってびっくりした。というかどうせぼっちなら実行委員会とか入っておけばいいのか。仕事がある方が手持ち無沙汰にならずかえって気が楽だ。クラスの輪の外に出る大義名分もできる。
「いいアイデアをいただきました。文化祭は実行委員会に入ろうかな。まだ募集してるかな」
「してたと思うよ。僕も抜けるし人手足りなくなると思うから、もし締め切ってたとしても、再募集あると思う」
「あ……そっか」
そうだ、樹神くんはいなくなるんだった。
「文化祭には遊びにくる?」
「ううん、行かない」
来ないのか。実行委員会やっぱ辞めようかな。私は手のひら返しが早いタイプだった。
「僕の次の学校の文化祭には来てよ」
「えっいいの? 行く行く」
「決まるのは来年になると思うんだけど」
「あれ、次は場所どのへんなんだっけ」
「静岡か愛知」
「良かった、意外と近かった」
また樹神くんの瞳が潤んだような気がした。
「はは、そのへんは近いんだ」
「飛行機の距離だとちょっとね、安請け合いできないなって」
「山田さんってちゃんと来そうだもんね」
「え、これ真に受けて行ったら実は呼ばれてなかった、みたいなことある?」
「ないない」と樹神くんは笑って「本当に来てほしいから。連絡する」と約束した。
あれ、樹神くんの話を聞く会のはずだったのだけど、核心に迫ったテーマはとくになかった。次が他県だということもわかったし、なんか元気になったみたいだし、これでいいのかなと思って私はベンチの席を立つ。
すると見計らったように、桜井先生がホールにやってきた。「じゃあそろそろ戻るよ、タクシー呼んだから」と声をかけてくる。
タイミングが良すぎて、なんだか怪しい。どこかで見ていたんだろうか。
◇
登場人物メモ
けっこう新幹線の名前からいただいています。
山田 夕璃 / 浅間 夕璃
桜井 翼
樹神 望 / 谷川 望
土岐くん
桜井 瑞穂 先生の奥さん




