10 グランクラス(2)
「大宮の次が仙台なのウケる」
「はは、わかる」
大宮を出たばかりのとき「次は仙台に停まります」とアナウンスされたのが今ごろジワると言って、山田さんは何度も思い出し笑いをしていた。箸が転んでも……というのはこのことだろう。
「仙台に停まります、まだ面白い」
くすくすしている山田さんを見ているうちに、自分までツボに入ってきた。
グランクラスの軽食つき券はお酒が飲み放題だ。桜井先生は「起きてると飲みたくなるから。盛岡つく前に起こして」と言って僕たちに背を向け、それからすぐに寝てしまった。僕のことで朝早くから出勤していたし、車の運転もあったし、疲れたのだろう。
山田さんは大宮駅で泣いたせいもあってうっすらしていた化粧を落としていた。あのままじゃ目元が荒れてしまうんだとか。
「それより今は保湿しないと。今どきは男子もするんだよね? なんか持ち歩いてるのある?」
首を横に振ると、山田さんはトラベル用の小分けになったパックをひとつくれた。ホテルのアメニティにあるようなやつだ。
僕は席を立った時に、洗面スペースに寄って生まれてはじめて化粧水を使った。肌がもちもちしたような気もするがよくわからない。そのままの感想を山田さんに伝えると、新幹線の中は乾燥するからあとで実感することになる、と勝ち誇ったように言われた。
最初は苦手だと思った山田さんだが、意外と話し易かった。彼女の家庭も完璧ではないのが、安心するのか。もしくは彼女が桜井先生に夢中で、僕にさして関心がないことにホッとするのか。
「ねぇそれどうやってやるの」
僕が座席で足を伸ばしていると、山田さんが僕のほうを覗き込んだ。
レッグレストのやり方がわからないようで、教えてあげた。「おおお、沈む〜」と山田さんがはしゃいでいる。僕も最初に乗ったときこんな感じだったなと微笑ましく見る。
でも山田さんが最大値までリクライニングを倒すから、まるで僕の隣で、彼女が寝そべっているような感覚になった。制服越しに体の線も少し出る。それがちょっと気まずくて僕は顔を逸らす。
「樹神くん、ほら、これすごい沈むんだけど! ほら、見て」
「ああ、うん」
「反応薄っ! 樹神くんは、前に乗ったことあるの」
「うん、何回か」
「へー樹神くんちってお金持ちなの?」
「え、いや……」
山田さんは僕の家のこと知らないんだ。知り合うとすぐ検索する人が多かったから、それは居心地よかった。僕の苗字はちょっと珍しいからネットで少し調べたらあれこれ出てきてしまう。そういう意味では山田さんの苗字を羨ましいなと思う。
「祖父が旅行好きで。前に貸し切りとかもやってて」
「グランクラス貸切!そんなのあるんだ」
「公式にはないんだけど、枠がオープンになったらとれる便で一斉に押さえてもらうの」
「へー」
「あっそうだ、スリッパもらおうか」
言って手元のボタンを押し、アテンダントさんを呼んで、スリッパとそれから山田さん用にブランケットをお願いした。
「樹神くんって人の使役に慣れてるね」
ありがとう、なんて言われるのを内心期待したのに、山田さんは変なことを言ってくる。その僕をいちばん使役しているのは山田さんじゃないか。函館までついて来させて。
「朝食べてなかったんだよね、まだお腹空いてる? スイーツもらう?」
「そんなものまであるんだ」
「うん」
「じゃあ食べたい! なんだかお姫様にでもなった気分」
グランクラスは僕の手柄じゃないんだけど、山田さんにそう言われて、なかなか心地が良かった。そして、勝手に世話を焼いてスイーツとおかわりの飲み物を注文する。また山田さんに使役されてるなと僕は思った。




