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第九話 違和感

放課後。


朝霧湊は担任教師に呼び止められた。


「朝霧、少しいいか?」


「はい。」


湊は足を止める。


「職員室に来てくれ。」


突然の呼び出しだった。


何か問題でもあっただろうか。


心当たりはない。


湊は首を傾げながら職員室へ向かった。


職員室。


教師に案内された席には、一人の男が座っていた。


短く整えられた髪。


鋭い目つき。


しかし、その表情は不思議と落ち着いている。


「朝霧湊君だね。」


男が口を開いた。


「はい。」


「私は日下部隼人。」


「国の育成プログラムで教官をしている。」


湊は思わず目を見開いた。


輝羅が通っている育成プログラム。


その教官がなぜ自分に会いに来たのだろう。


「座ってくれ。」


日下部に促され、湊は椅子に腰掛けた。


しばらく沈黙が流れる。


先に口を開いたのは日下部だった。


「単刀直入に聞こう。」


「君は本当に能力を持っていないのか?」


湊は苦笑した。


何度も聞かれてきた質問だった。


「はい。」


「発現していません。」


日下部は資料へ目を落とす。


そこには検査結果が記されていた。


異常なし。


能力反応なし。


前例なし。


世界で唯一の無能力者。


「不便ではないか?」


日下部が聞く。


湊は少し考えた。


「不便なこともあります。」


「でも、それが普通なので。」


日下部は何も言わない。


ただ静かに聞いていた。


やがて日下部は一枚の資料を取り出した。


能力物流事故報告書。


湊はすぐに思い出した。


アリスを助けた日のことを。


「この事故だ。」


「なぜ飛び出した?」


日下部の視線が湊へ向けられる。


「助けなきゃと思ったからです。」


即答だった。


まるで当たり前のことを言うように。


しかし日下部は眉をひそめる。


「それだけか?」


「はい。」


湊は頷いた。


「目の前で女の子が危なかったので。」


「助けなきゃって。」


日下部は言葉を失う。


能力者なら危険を計算する。


成功率を考える。


自分の能力で助けられるか判断する。


だが湊は違った。


考える前に動いた。


ただ助けたいと思った。


それだけだった。


「朝霧。」


日下部が静かに呼ぶ。


「はい。」


「君は変わっているな。」


湊は困ったように笑った。


「よく言われます。」


その答えに、日下部は小さく息を吐いた。


そして立ち上がる。


「今日はありがとう。」


「もう戻っていい。」


「はい。」


湊は頭を下げ、職員室を後にした。


一人になった職員室。


窓の外では夕日が校舎を赤く染めている。


日下部は事故報告書を見つめた。


そこには朝霧湊の名前。


世界で唯一の無能力者。


能力を持たない少年。


しかし。


今日の会話で感じた。


能力者たちとは違う何かを。


日下部は静かに呟く。


「朝霧湊……」


そして資料を閉じる。


「彼は何を持っている?」


窓の外へ目を向ける。


「能力ではない何かを。」


夕日だけが静かに輝いていた。


第九話 違和感 完

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