第八話 当たり前じゃない日常
昼休み。
朝霧湊は弁当を持って屋上へ向かった。
扉を開けると、すでに椿小春と神童輝羅の姿があった。
「お、湊。」
「こんにちは、湊くん。」
自然と挨拶を交わし、三人はいつもの場所へ腰を下ろした。
屋上には心地よい風が吹いている。
小春の肩には、一羽の小鳥がちょこんと乗っていた。
「その子、前に話してた鳥?」
湊が尋ねる。
小春は嬉しそうに頷いた。
「うん。もうすっかり元気になったよ。」
小鳥は小春の頬をつつき、楽しそうに鳴いた。
「相変わらず懐いてるな。」
輝羅が言う。
「小春は動物に好かれるからな。」
「そうかな?」
照れたように笑う小春。
その様子を見て、湊も思わず笑みを浮かべた。
「そういえばさ。」
湊は弁当を開きながら言った。
「二人って将来何になりたいとかあるの?」
小春と輝羅は顔を見合わせた。
最初に口を開いたのは小春だった。
「私は獣医さんかな。」
「やっぱり。」
湊は納得したように頷く。
「動物を助けたいんだ。」
小春は優しく小鳥の頭を撫でた。
「おばあちゃんの影響もあるしね。」
琴葉の顔を思い浮かべたのか、小春は少し微笑んだ。
「いい夢じゃねぇか。」
輝羅が言う。
「輝羅は?」
湊が聞く。
すると輝羅は迷いなく答えた。
「俺は誰よりも強くなる。」
その言葉には一切の迷いがなかった。
「軍隊とか?」
「国の仕事かもしれねぇな。」
輝羅は空を見上げる。
「能力を持って生まれた以上、責任があると思ってる。」
湊は少し驚いた。
普段は自信満々な輝羅だが、その言葉には覚悟のようなものが感じられた。
「湊は?」
今度は輝羅が聞いた。
「俺?」
湊は少し考える。
そして照れくさそうに頭を掻いた。
「保育士かな。」
「保育士?」
小春が目を丸くする。
「うん。」
湊は笑った。
「子供好きだし。」
「似合うかも。」
小春が言う。
「確かに。」
輝羅も珍しく同意した。
「子供に好かれそうだ。」
三人は思わず笑った。
能力も違う。
目指す未来も違う。
それでも今、この時間は不思議と心地よかった。
これがずっと続けばいい。
そんなことを湊は少しだけ思った。
――――――
放課後。
育成プログラム施設。
一人の男が机に置かれた資料を見つめていた。
日下部隼人。
国の育成プログラムを担当する教官の一人である。
彼の視線は、一枚の資料で止まった。
そこに書かれていた名前。
――朝霧湊。
日下部は静かに呟く。
「朝霧湊……か。」
窓の外では夕日が沈み始めていた。
そして日下部は再び資料へ目を落とす。
その表情は、どこか興味深そうだった。
第八話 当たり前じゃない日常 完




