第七話 小春の秘密
放課後。
椿小春は学校から帰ると、真っ先に庭へ向かった。
「ただいまー!」
「おかえり。」
庭で花の手入れをしていた祖母、琴葉が優しく微笑む。
その声を聞きつけたのか、一匹の犬が元気よく駆け寄ってきた。
「ハナ!」
「ワンッ!」
勢いよく飛びついてくるハナを抱きしめながら、小春は笑った。
『おかえりー!』
今日も元気いっぱいだ。
「散歩、行こうか。」
『行く行く!』
ハナは尻尾を大きく振った。
その様子を見て、琴葉も穏やかに笑う。
「相変わらず仲良しね。」
「うん!」
小春は嬉しそうに頷いた。
散歩から戻ると、夕日が庭を赤く染めていた。
小春はジョウロを持ち、花壇へ水をあげる。
その隣では琴葉が花の手入れをしていた。
「おばあちゃん。」
「なあに?」
「どうしてそんなに花が好きなの?」
琴葉は少し考えてから答えた。
「花はね。」
「言葉を持っているのよ。」
小春は首を傾げる。
「言葉?」
「ええ。」
琴葉は一輪の花にそっと触れた。
すると少し元気をなくしていた花が、まるで応えるように顔を上げる。
小春は驚かない。
祖母の能力を昔から知っているからだ。
植物と心を通わせる力。
それが琴葉の能力だった。
「花にはね、それぞれ意味があるの。」
琴葉はそう言いながら花壇を見渡した。
「勇気。」
「感謝。」
「思いやり。」
「そして希望。」
小春は興味深そうに聞いている。
「人と同じなんだね。」
琴葉は優しく頷いた。
「そうね。」
「だから私は花が好きなのかもしれないわ。」
しばらく沈黙が流れる。
風が吹き、花々が揺れた。
ハナは気持ちよさそうに寝転がっている。
小春はそんな時間が好きだった。
家族も大切だった。
けれど、幼い頃から一番長く一緒に過ごしてきたのは琴葉だった。
悲しい時。
悩んだ時。
いつも優しく話を聞いてくれた。
だから小春は、人にも動物にも優しくしたいと思うようになった。
「小春。」
琴葉が静かに呼ぶ。
「なに?」
琴葉は花壇の前でしゃがみ込み、一輪の花を摘んだ。
淡いピンク色のガーベラだった。
「この花をあげる。」
「きれい……。」
小春はそっと受け取る。
「この花はガーベラ。」
琴葉は優しく微笑んだ。
「花言葉は『希望』よ。」
「希望?」
「ええ。」
琴葉はゆっくり頷く。
「どんなにつらい時でも。」
「どんなに苦しい時でも。」
「前を向く力。」
「それが希望よ。」
小春は手の中のガーベラを見つめた。
夕日に照らされた花びらが、やさしく輝いて見える。
「覚えておく。」
小春はそう言って笑った。
琴葉も微笑む。
春の風が庭を吹き抜け、ガーベラが小さく揺れた。
まるで未来を応援するように。
小春は胸の前でガーベラを大切に抱いた。
第7話 小春の秘密 完




