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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第六十八話 願いの答え


十五年前――。


イコル・ヤーレン研究所。


静かな研究室。


義一は椅子へ腰を下ろしていた。


博士がゆっくりと向かいへ座る。


「義一さん。」


「これが最後の確認です。」


義一は静かに頷いた。


博士は真っ直ぐ義一を見つめる。


「能力はランダムです。」


「望んだ能力になる保証はありません。」


「そして。」


「一度投与すれば、元の身体には戻れません。」


「……それでも。」


「後悔はありませんか。」


研究室が静まり返る。


義一は迷いなく答えた。


「ありません。」


「俺は。」


「守るために、この道を選びます。」


博士は小さく頷いた。


「分かりました。」


---


別室。


研究員が義一の健康状態を確認していく。


「血圧、正常。」


「脈拍、正常。」


「体温、正常。」


「投与可能です。」


博士は薬を静かに手に取った。


透明な液体が、わずかに光を反射する。


「始めます。」


義一は左腕を差し出した。


細い注射針が腕へ刺さる。


チクリとした痛み。


それだけだった。


薬は静かに体内へ送り込まれていく。


数秒後。


注射は終わった。


義一は自分の身体を見る。


「……何も。」


「変わらない。」


博士は静かに微笑む。


「能力は。」


「外から見て分かるものではありません。」


「これから測定を行います。」


---


研究室。


義一は測定装置の前へ立つ。


研究員が機械を操作した。


「能力解析を開始します。」


静かな電子音が研究室へ響く。


能力解析中――。


誰も話さない。


義一。


蓬萊。


博士。


三人ともモニターを見つめていた。


やがて。


ピッ。


短い電子音が鳴る。


モニターへ文字が浮かび上がる。


『解析完了』


研究員は画面を確認した。


その表情が一瞬だけ変わる。


「……博士。」


静かな声で画面を示した。


博士はゆっくりと歩み寄る。


モニターへ視線を落とす。


そして――。


ほんのわずかに目を見開いた。


研究室へ重い沈黙が流れる。


義一は思わず息を呑む。


「……どうでしたか。」


博士はすぐには答えなかった。


もう一度画面を見つめる。


確認するように、小さく頷く。


そして。


ゆっくりと義一へ向き直った。


「能力を確認しました。」


義一は拳を握る。


蓬萊も黙ったまま博士を見つめている。


博士は静かに口を開いた。


「能力名――。」


一拍。


研究室の空気が張り詰める。


「鉄壁。」


静寂。


誰も言葉を発しなかった。


義一は、その名前を静かに繰り返す。


「……鉄壁。」


「それは。」


「どんな能力なんですか。」


博士は穏やかに答える。


「身体防御に特化した能力です。」


「人を倒すためではありません。」


「守るための能力です。」


義一は目を閉じた。


詩織の笑顔。


「義一さん。」


「心配しすぎですよ。」


あの日の声が蘇る。


血だまり。


震える手。


病室で交わした約束。


すべてが胸を駆け巡る。


そして、小さく呟いた。


「……守れるんですね。」


博士は力強く頷く。


「はい。」


「その能力は。」


「守るために存在します。」


義一は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。」


---


夕方。


東理病院。


病室。


詩織はまだ静かに眠っている。


義一はゆっくりと病室へ入った。


ベッドの横へ座る。


眠る詩織の手をそっと握った。


「詩織。」


「聞こえてるか分からないけど。」


「今日。」


「俺は能力者になった。」


少しだけ微笑む。


「どんな能力になるか分からなくて。」


「正直、不安だった。」


「でも。」


「俺が手に入れたのは。」


「守るための力だった。」


義一は詩織の手を優しく握り返す。


「もう。」


「二度と同じ後悔はしない。」


「今度こそ。」


「必ず守る。」


病室には静かな夕日が差し込む。


眠る詩織の表情は変わらない。


それでも義一の瞳には、


確かな決意が宿っていた。


病室の棚には、


胸ポケットから取り出された小さなお守りが、


再び静かに置かれていた。


その隣で、


義一は詩織の手を握り続ける。


守るために生まれた力。


その願いは、


静かに未来へと歩き始めた――。


第69話へ続く

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