↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
PR
67/74

第六十七話 選ぶ覚悟


十五年前――。


東理病院。


病室。


詩織は静かに眠っていた。


規則正しく鳴る心電図。


義一はベッドの横へ立つ。


言葉は出ない。


ただ、その寝顔を見つめるだけだった。


枕元には、小さなお守り。


義一はそれを手に取る。


ゆっくりと胸ポケットへ戻した。


「もう少しだけ……。」


「俺が持ってる。」


「必ず。」


「また笑って返すから。」


義一は詩織の手を優しく握る。


「待っててくれ。」


「今度こそ。」


「守る。」


そう言い残し、病室を後にした。


---


イコル・ヤーレン研究所。


蓬萊が義一を研究室へ案内する。


部屋には博士が待っていた。


博士は静かに椅子を勧める。


「座ってください。」


義一は黙って座る。


しばらく沈黙が続いた。


やがて博士が口を開く。


「義一さん。」


「今日は、大切なお話があります。」


博士はガラスケースへ目を向ける。


一本の薬。


静かに光を反射していた。


「これが。」


「能力の薬です。」


義一は薬を見つめる。


博士は続ける。


「ですが。」


「私は、この薬を勧めることはできません。」


義一は驚いた表情を見せた。


博士は静かに話を続ける。


「人生を変える選択だからです。」


「能力は完全にランダム。」


「望んだ能力になる保証はありません。」


「人を守れる能力かもしれない。」


「逆に。」


「全く戦いに向かない能力かもしれない。」


「そして。」


「一度投与すれば。」


「二度と元の身体には戻れません。」


研究室が静まり返る。


義一は何も言わない。


ただ薬を見つめ続けていた。


---


蓬萊が静かに口を開く。


「義一さん。」


「決めるのは、あなたです。」


「誰も強制はしません。」


「今日、答えを出さなくても構いません。」


義一は立ち上がる。


深く一礼した。


「ありがとうございます。」


研究室を後にする。


---


廊下。


義一は歩き続ける。


能力。


ランダム。


守れる保証はない。


薬を飲めば。


もう元には戻れない。


足が止まる。


その瞬間。


頭の中に、あの日の光景が蘇る。


---


「義一さん。」


「心配しすぎですよ。」


詩織の笑顔。


---


「黙れッ!!」


一徳の叫び。


---


血だまり。


---


「詩織さん!!」


---


救急車。


---


血に染まった自分の手。


---


「俺が守れなかった……。」


---


義一は強く目を閉じた。


拳を握る。


「……違う。」


「もう。」


「二度と。」


「守れない後悔はしたくない。」


義一はゆっくり振り返る。


研究室の扉を見つめる。


そして。


再び扉を開けた。


博士と蓬萊が顔を上げる。


義一は真っ直ぐ博士を見る。


博士は静かに尋ねた。


「義一さん。」


「一つだけ確認させてください。」


「それは。」


「復讐のためですか。」


研究室が静まり返る。


義一は首を横に振った。


「違います。」


少し涙を浮かべながら。


それでも迷いのない声で言う。


「守るためです。」


「俺は。」


「もう誰も失いたくありません。」


博士は義一を静かに見つめた。


やがて、小さく頷く。


「……分かりました。」


義一は深く頭を下げる。


そして。


力強く言った。


「お願いします。」


研究室の静寂の中。


その一言だけが、静かに響いた――。


第68話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。