↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
PR
65/73

第六十五話 消えない血


十五年前――。


東理病院。


救急車のサイレンが静かに止まる。


担架が慌ただしく運ばれていく。


「出血量が多い!」


「至急、手術室!」


詩織の姿は、そのまま手術室へ消えていった。


赤いランプが点灯する。


『手術中』


義一は、その文字をただ見つめていた。


---


数分後。


蓬萊が息を切らしながら病院へ駆け込んできた。


「義一さん!」


義一はゆっくり振り返る。


その両手には、まだ乾ききっていない血が付いていた。


蓬萊は言葉を失う。


「詩織は……。」


義一は力なく答える。


「……まだ。」


「手術中です。」


沈黙。


ただ手術室のランプだけが光っている。


---


そこへ。


イコル・ヤーレン博士も病院へ姿を現した。


重苦しい空気の中、博士は蓬萊へ近付く。


「蓬萊さん。」


「少し、お話があります。」


蓬萊は静かに頭を下げた。


「申し訳ありません。」


「今は……。」


「詩織のことだけを考えさせてください。」


博士は蓬萊の表情を見つめる。


そして、小さく頷いた。


「……分かりました。」


それ以上、何も言わなかった。


---


待合室。


時計の針だけが静かに進む。


誰一人、口を開かない。


義一は俯いたままだった。


やがて。


小さく呟く。


「俺が……。」


「送っていれば。」


「こんなことには……。」


蓬萊が静かに言う。


「違います。」


「一人で帰らせた私にも責任があります。」


義一は勢いよく立ち上がった。


「違います!」


待合室に声が響く。


「俺は警備責任者です!」


「危険だと分かっていた!」


「なのに……。」


「守れなかった。」


義一の肩が震える。


「俺が付いていれば。」


「俺が送っていれば……。」


言葉が続かない。


蓬萊も何も返せなかった。


---


数時間後。


手術室のランプが消えた。


医師が静かに現れる。


全員が立ち上がる。


医師は深く息を吐いた。


「手術は成功しました。」


義一たちの表情が少しだけ緩む。


しかし。


医師は続けた。


「命は助かる可能性があります。」


「ですが……。」


「意識が戻るかどうかは、まだ分かりません。」


再び沈黙。


希望と絶望が入り混じる。


---


その頃。


テレビニュース。


『ZERO関係者襲撃』


『能力犯罪か』


『犯人逃走中』


山奥。


作業小屋。


中村一徳はニュースを見つめていた。


静かにテレビを消す。


「これで。」


「少しは考え直すだろ。」


その表情に後悔はない。


「俺は。」


「間違ってない。」


窓の外では木々が風に揺れていた。


---


深夜。


東理病院。


義一は一人、洗面所にいた。


蛇口をひねる。


水が流れる。


両手を洗う。


赤い血が流れていく。


何度も。


何度も。


何度も。


洗う。


それでも。


義一は止めなかった。


鏡を見る。


震える自分の姿。


義一は小さく呟く。


「……落ちない。」


血は、もう落ちていた。


それでも義一には。


まだ手が赤く染まって見えた。


守れなかった記憶だけが、


心に焼き付いて離れない。


---


病室の前。


義一は静かに座り込む。


ポケットへ手を入れる。


一本の缶コーヒー。


詩織へ渡そうと思って買っていたものだった。


まだ少しだけ温かい。


義一は缶を強く握り締めた。


涙が一滴。


床へ落ちる。


「俺が……。」


声が震える。


「俺が守れなかった……。」


「俺に……。」


「力がなかったからだ……。」


誰もいない廊下に、


義一の嗚咽だけが静かに響いていた――。


第66話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。