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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第六十四話 守れなかった約束


十五年前――。


ZERO本部。


活動を終えたメンバーたちが片付けをしていた。


蓬萊は資料をまとめながら言う。


「皆さん。」


「今日もお疲れ様でした。」


「気を付けて帰ってください。」


義一は建物の外へ目を向けた。


「少し周囲を確認してきます。」


蓬萊は頷く。


「お願いします。」


---


詩織は鞄を肩に掛ける。


義一が振り返った。


「詩織さん。」


「今日は俺が送ります。」


詩織は苦笑する。


「ありがとうございます。」


「でも、すぐ近くですから。」


「大丈夫ですよ。」


義一は少し困ったように笑う。


「最近は物騒です。」


「一人では帰らないでください。」


詩織は優しく微笑む。


「義一さん。」


「心配しすぎですよ。」


「また明日。」


軽く手を振り、歩き出した。


義一は少しだけ迷う。


だが、


建物周辺の警備確認を優先した。


「……急いで終わらせよう。」


---


住宅街。


夕暮れ。


詩織は静かな道を歩いていた。


ふと足を止める。


「……。」


誰かの視線を感じる。


振り返る。


誰もいない。


「気のせい……かな。」


再び歩き始めた、その時。


「こんばんは。」


低い声。


詩織は驚いて振り返る。


帽子を深く被った青年が立っていた。


穏やかな表情。


しかし、その目だけが異様に冷たい。


「あなたは……?」


青年は静かに口を開く。


「ZEROの人ですよね。」


詩織は警戒する。


「そうですが……。」


青年は少し笑った。


「能力って。」


「素晴らしいと思いませんか?」


詩織は戸惑う。


「もちろん。」


「人を助ける力にもなります。」


「でも。」


「使う人の心が何より大切です。」


青年の笑みが消える。


「また、その話か。」


「あなたたちは。」


「能力を危険なものとして広めている。」


詩織は静かに首を振った。


「違います。」


「私たちは。」


「能力を否定しているんじゃありません。」


「能力を持つ人も。」


「持たない人も。」


「安心して暮らせる社会を作りたいだけです。」


青年の表情が険しくなる。


「綺麗事だ。」


「能力を否定する人間に。」


「未来なんて語る資格はない。」


詩織は一歩前へ出た。


「あなたは間違っています。」


「能力は。」


「人を傷付けるためのものじゃありません。」


その一言だった。


青年の感情が爆発する。


「黙れッ!!」


青年が右手を振る。


ヒュンッ!!


目には見えない風の刃。


詩織は咄嗟に身をかわす。


しかし。


鋭い一撃が肩から胸元を切り裂いた。


「きゃあっ!!」


詩織は地面へ倒れる。


鮮やかな赤が広がっていく。


青年――中村一徳は静かに見下ろした。


「俺は。」


「間違ってない。」


「能力社会こそ。」


「人類の未来だ。」


再び右手を上げる。


その瞬間。


「待てッ!!」


義一の叫び声が響いた。


一徳は舌打ちする。


「……早いな。」


義一は全力で駆け寄る。


一徳は後ろへ飛び退く。


「逃がすか!」


義一も追い掛ける。


路地。


塀。


狭い通路。


あと少し。


届かない。


一徳は振り返る。


「勘はいい。」


「でも。」


「もう止められない。」


右手を振る。


風の刃がゴミ箱を切り裂く。


その一瞬の隙。


一徳は闇へ消えた。


義一は追うのをやめる。


振り返る。


そこには。


血を流し倒れる詩織。


「詩織さん!!」


義一は駆け寄る。


震える手で傷口を押さえる。


「しっかりしてください!」


詩織は苦しそうに目を開ける。


「……義一さん。」


かすかな笑顔。


「ごめんなさい。」


義一は首を横に振る。


「しゃべらないでください!」


「必ず助かります!」


震える手で救急へ電話を掛ける。


「救急ですか!」


「女性が能力者に襲われました!」


「出血がひどい!」


「場所は――」


数分後。


救急車のサイレンが近付いてくる。


救急隊が詩織を担架へ乗せる。


義一は震える手で携帯を取り出した。


蓬萊へ電話を掛ける。


「蓬萊さん……!」


声が震える。


「詩織さんが……。」


「能力者に襲われました。」


「今、東理病院へ救急搬送されています!」


電話の向こう。


蓬萊は言葉を失う。


「……分かりました。」


「今すぐ向かいます。」


電話が切れる。


救急車の扉が閉まる。


サイレンが鳴り響く。


ピーポー……。


義一は、その救急車を見送ることしかできなかった。


ゆっくりと視線を落とす。


自分の両手。


そこには。


詩織の血がべっとりと付いていた。


義一は何も言えない。


ただ、


血に染まった自分の手を見つめ続けていた――。


第65話へ続く

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