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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第六十ニ話 見えない敵


十五年前――。


ZEROへ届いた脅迫状。


その一件は、警察にも届け出られた。


だが――。


「現時点では悪質ないたずらの可能性もあります。」


警察は慎重な姿勢を崩さなかった。


蓬萊は静かに頭を下げる。


「よろしくお願いします。」


警察署を出ると、義一が口を開いた。


「……警察だけじゃ難しいかもしれません。」


蓬萊は頷く。


「ええ。」


「ですが、私たちも冷静でいなければなりません。」


---


数日後。


ZEROが講演会を開く予定だった公民館。


朝早く訪れた詩織は、その光景に立ち尽くした。


「……えっ。」


壁一面に赤いスプレーで落書きがされていた。


『能力教育反対』


『ZEROは消えろ』


『能力社会こそ未来だ』


机や椅子は倒され、配布予定だった資料も床へ散乱している。


さらに――。


入口付近には黒く焼け焦げた跡。


資料の一部が燃やされていた。


幸い火はすぐに消えていたため、大きな火災にはならなかった。


しかし。


その場にいた誰もが理解した。


これは偶然ではない。


明確な敵意だった。


---


連絡を受けた義一は、すぐに現場へ駆け付けた。


床を確認する。


窓。


出入口。


鍵穴。


周囲の足跡。


一つずつ丁寧に調べていく。


「正面から侵入した形跡はありません。」


「窓も壊されていない……。」


義一は焼け跡の前でしゃがみ込む。


「火を付けた後。」


「すぐに消したのか……。」


蓬萊が近付く。


「何か分かりましたか?」


義一は首を横に振る。


「証拠らしいものは残っていません。」


「ですが。」


「犯人は、この建物の構造を理解しています。」


「計画的です。」


蓬萊の表情が曇る。


---


その頃。


イコル・ヤーレン研究所。


博士は新聞を見つめていた。


『ZERO活動拠点で器物損壊』


『能力教育反対の落書き』


博士は静かに立ち上がる。


その足でZERO本部を訪れた。


「蓬萊さん。」


蓬萊は驚いた表情を見せる。


「博士。」


博士は荒らされた資料を見渡し、小さく息を吐いた。


「理想を守るには。」


「理想だけでは足りません。」


蓬萊は黙って聞いている。


博士は続けた。


「警備も必要です。」


「活動を続けるなら。」


「皆さん自身の安全も守ってください。」


蓬萊は静かに頷いた。


「……ありがとうございます。」


---


同じ頃。


政府。


能力犯罪対策準備室。


担当者が報告を始める。


「能力関連事件は現在二十九件。」


「そのうち、器物損壊や脅迫事件が急増しています。」


別の担当者が資料をめくる。


「偶発的な事件ではありません。」


「明らかに増加傾向です。」


会議室には重苦しい空気が流れていた。


---


夕方。


山奥。


木を切る音が響く。


ザンッ。


ザンッ。


一本の大木がゆっくりと倒れる。


若い男が汗を拭った。


真面目そうな表情。


作業服姿。


腰には仕事道具。


男は倒れた木を見つめ、小さく笑う。


「能力って、本当に便利だ。」


その手が軽く動く。


目には見えない刃が飛ぶ。


離れた枝が音もなく切り落とされた。


男は満足そうに頷く。


「これが進化だ。」


「なのに……。」


「ZEROの連中は、それを否定する。」


男は新聞記事を握り締める。


そこには、


『ZERO 能力教育講演』


という見出し。


男は静かに新聞を丸めた。


「俺が。」


「間違いを教えてやる。」


その瞳には、静かな狂気が宿っていた。


---


夜。


ZERO本部。


メンバーたちは重い空気に包まれていた。


「ここまでされるなんて……。」


「本当に活動を続けるんですか?」


蓬萊は一人ひとりの顔を見つめる。


「続けます。」


「ここで諦めれば。」


「子どもたちへ伝える場所がなくなってしまう。」


静かな決意だった。


義一も頷く。


「俺も警備を続けます。」


「必ず皆さんを守ります。」


蓬萊は微笑んだ。


「ありがとうございます。」


---


深夜。


義一は一人でZERO本部周辺を巡回していた。


街灯だけが夜道を照らしている。


ふと足を止める。


地面には一本の煙草。


まだ新しい。


義一は周囲を見渡す。


「……誰かいた。」


静かな夜風が吹き抜ける。


その少し離れた建物の屋上。


一人の男が義一を見下ろしていた。


義一は、その視線にまだ気付いていない。


男は小さく呟く。


「次で終わりだ。」


夜の闇が、その姿を静かに包み込んだ。


第63話へ続く

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