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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第六十一話 忍び寄る影


十五年前――。


能力犯罪は、日に日に増え続けていた。


ニュースでは毎日のように事件が報じられる。


『能力関連事件 第26号。』


『能力を利用した傷害事件。』


『能力関連事件 第27号。』


『能力を利用した窃盗事件。』


『能力関連事件 第28号。』


『能力を利用した脅迫事件。』


街の人々も少しずつ表情を曇らせ始めていた。


「最近、事件が多いね。」


「能力って、本当に便利なのかな……。」


少しずつ。


ほんの少しずつ。


社会の空気が変わり始めていた。


---


休日。


義一は私服姿でZERO本部を訪れていた。


今日は研究所の仕事は休み。


ボランティアとして活動に参加している。


「義一さん、おはようございます。」


詩織が笑顔で迎える。


義一も穏やかに笑った。


「今日も警備を担当します。」


蓬萊が頭を下げる。


「いつもありがとうございます。」


義一は照れくさそうに笑う。


「俺にできることなんて、これくらいですから。」


---


その日。


ZEROは市民会館で講演会を開いていた。


蓬萊は壇上へ立つ。


「ここ最近。」


「能力犯罪は急激に増えています。」


会場が静まり返る。


「最初は事故でした。」


「次は放火。」


「そして傷害事件。」


「ついには殺人未遂事件まで起きました。」


ざわめきが広がる。


蓬萊は静かに続けた。


「能力は便利です。」


「ですが。」


「使う人の心を育てなければ。」


「事件はさらに大きくなります。」


「どうか。」


「皆さんも危機感を持ってください。」


会場から静かな拍手が起こった。


---


講演会終了後。


参加者たちが帰り始める。


義一は最後まで会場全体へ視線を巡らせていた。


出入口。


非常口。


窓。


物陰。


一つひとつ確認していく。


警備責任者として長年培った習慣だった。


「……異常なし。」


そう小さく呟いた、その瞬間だった。


バンッ!!


突然、入口近くの看板が大きな音を立てて倒れる。


会場が騒然となる。


悲鳴が響く。


義一は反射的に詩織の前へ立った。


「下がってください!」


鋭い視線で周囲を見渡す。


逃げる人影はない。


能力の痕跡も見当たらない。


看板には、一枚の紙だけが貼られていた。


義一が慎重に紙を剥がす。


そこには赤い文字で書かれていた。


『余計なことをするな。』


『次は言葉では済まない。』


義一の表情が険しくなる。


詩織も息を呑んだ。


「脅迫……。」


蓬萊は紙を静かに見つめる。


「……ついに。」


---


その頃。


イコル・ヤーレン研究所。


博士は一冊の資料を蓬萊へ手渡した。


「これを見てください。」


蓬萊が資料を開く。


能力事故。


能力犯罪。


事件件数。


すべて右肩上がりだった。


蓬萊は言葉を失う。


博士が静かに口を開く。


「予想より早い。」


「社会が変わる速度が。」


「私の想像を超えています。」


蓬萊は資料を握り締めた。


「それでも。」


「教育を続けます。」


博士は小さく頷く。


「私もです。」


「学校教育への導入は、必ず実現させます。」


二人の信念は、まだ同じ方向を向いていた。


---


その頃。


政府庁舎。


会議室。


『能力犯罪対策準備室』


その看板が掲げられていた。


担当者が説明を始める。


「本日より。」


「能力犯罪対策準備室は正式に始動します。」


「各省庁より担当者を選出し、本格的な組織設立へ向け準備を進めます。」


資料が配られる。


会議室の外。


一人の青年が、その説明を静かに聞いていた。


『能力犯罪対策準備室』


その文字を見つめる。


青年は小さく呟いた。


「能力犯罪専門の組織か……。」


ほんの少しだけ笑みを浮かべる。


「悪くない。」


青年は静かに歩き去っていった。


まだ誰も。


彼が、この国の未来を大きく変える存在になることを知らない。


---


夜。


ZERO本部。


脅迫状は机の上に置かれていた。


メンバーたちは不安そうな表情を浮かべている。


「蓬萊さん……。」


「活動を休止した方がいいんじゃ……。」


部屋が静まり返る。


蓬萊は脅迫状を見つめる。


そして静かに首を横へ振った。


「活動は続けます。」


「恐怖に負けたら。」


「子どもたちの未来は守れません。」


誰も反論できなかった。


義一は脅迫状を静かに見つめる。


そして、


楽しそうに笑う詩織へ目を向ける。


心の中で、静かに誓う。


「……必ず守る。」


まだ、その決意だけだった。


第62話へ続く

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