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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第五十九話 希望の教室


十五年前――。


能力を利用した初めての悪質事件から数日。


街には再び穏やかな日常が戻っていた。


テレビでは能力を活かした新商品の特集。


街では能力を使って仕事をする人々。


「便利になったね。」


「事件はあったけど、一部の人だけでしょ。」


「能力が悪いわけじゃない。」


多くの人は、そう考えていた。


蓬莱は駅前を歩きながら、その会話を静かに聞いていた。


「まだ……。」


「誰も危険性を実感していない。」


---


ニュース番組。


『能力を利用した事件を受け、政府は法整備について協議を開始しました。』


『現在、能力犯罪を想定した法律は整備されておらず、政府は新たな法制度の検討を進めています。』


画面には国会議事堂が映し出される。


蓬莱はテレビを見つめ、小さく呟いた。


「法律も……。」


「まだ追いついていない。」


---


その日。


ZEROは地域の小学校で講演会を開いていた。


体育館には多くの児童と保護者が集まっている。


蓬莱は優しい表情で子どもたちを見渡した。


「今日は、能力について一緒に考えてみましょう。」


子どもたちは真剣に耳を傾ける。


能力を使った遊び。


能力を使った仕事。


能力の便利さ。


蓬莱は分かりやすく説明していく。


そして最後に言った。


「能力は、とても便利です。」


「でも。」


「便利だからこそ。」


「正しく使うことが、一番大切なんです。」


その時、一人の男の子が手を挙げた。


「はい。」


蓬莱が微笑む。


男の子は真っ直ぐ蓬莱を見つめた。


「能力があれば。」


「みんな幸せになれるんじゃないの?」


体育館が静まり返る。


蓬莱は少し考え、穏やかに答えた。


「能力だけでは幸せになれない。」


「一番大切なのは。」


「その力を使う人の心なんだ。」


男の子はゆっくり頷いた。


「心……。」


「うん。」


「ありがとう。」


蓬莱は笑顔で頷いた。


---


同じ頃。


イコル・ヤーレン研究所。


博士は政府関係者との会議に出席していた。


「能力事故。」


「能力犯罪。」


「今後も増える可能性があります。」


会議室が静まり返る。


博士は真っ直ぐ前を見つめる。


「だからこそ。」


「能力教育を義務教育へ組み込むべきです。」


一人の議員が尋ねる。


「学校で能力を教える、と?」


博士は頷いた。


「はい。」


「薬を投与するだけでは終わりではありません。」


「能力と共に生きる責任も。」


「子どもの頃から学ぶ必要があります。」


会議室の空気が少し変わった。


---


講演会終了後。


詩織は資料を片付けていた。


そこへ義一が近付く。


「お疲れさまでした。」


詩織は笑顔で振り返る。


「今日は警備まで、本当にありがとうございました。」


義一は少し照れたように笑う。


「いえ。」


「無事に終わって安心しました。」


少しだけ沈黙が流れる。


義一は荷物を持ち上げた。


「駅まで送りましょうか。」


詩織は少し驚いた後、優しく微笑んだ。


「ありがとうございます。」


二人はゆっくり歩き始めた。


---


夜。


ZERO本部。


メンバーたちは今日の講演会について話し合っていた。


「子どもたちは真剣でしたね。」


「少しずつ伝わっている気がします。」


皆が前向きな言葉を口にする。


蓬莱も笑顔で頷いた。


「きっと。」


「少しずつ変わっていきます。」


その言葉にメンバーたちは安心した表情を浮かべた。


---


会議が終わる。


一人になった蓬莱は机の上に置かれた新聞を手に取る。


『能力犯罪』


『法整備の遅れ』


『放火事件』


同じ言葉が何度も目に入る。


その様子を、詩織だけが静かに見つめていた。


「蓬莱さん……。」


蓬莱は気付くと、いつもの笑顔を見せた。


「大丈夫ですよ。」


「少し考え事をしていただけです。」


詩織はそれ以上何も聞かなかった。


---


その頃。


政府庁舎。


能力犯罪についての会議が続いていた。


一人の官僚が資料を机へ置く。


「教育だけでは限界があります。」


別の官僚が頷く。


「能力犯罪へ対応する専門組織も必要でしょう。」


部屋が静まり返る。


議長がゆっくり口を開いた。


「まずは。」


「準備室を立ち上げましょう。」


誰も異論はなかった。


能力社会は、新たな時代へ進み始めていた。


---


その夜遅く。


蓬莱の携帯電話が鳴る。


「……はい。」


電話の向こうから、ZEROメンバーの焦った声が聞こえた。


「蓬莱さん!」


「また……。」


「能力を悪用した事件が起きました!」


蓬莱の表情が少しだけ曇る。


「……今回は。」


「何があったんですか。」


電話の向こうで、重苦しい沈黙が流れる。


「能力者同士の口論が発展して……。」


「能力を使ってしまったそうです。」


「一人が重傷です。」


蓬莱は静かに目を閉じた。


「……そうですか。」


電話を切る。


詩織が静かに尋ねる。


「また事件ですか……?」


蓬莱はゆっくり頷いた。


「今度は。」


「能力者同士の喧嘩でした。」


「能力の種類は関係ない……。」


「ついに。」


「人を傷付けるために能力を使う時代が始まってしまった。」


窓の外では、能力を使って楽しそうに遊ぶ子どもたちの笑い声が聞こえていた。


その笑顔を見つめながら、蓬莱は小さく呟く。


「まだ……。」


「間に合う。」


そう信じたい。


そう願いたい。


しかし。


現実は、その願いよりも早く動き始めていた。


第60話へ続く

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