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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第四十三話 交わる視線


脅迫メールの期限まで、残り二十四時間――。


東洋未来ホールディングス本社。


社長は一人、薄暗い社長室で窓の外を見つめていた。


机の上には家族の写真。


そして社員たちの集合写真。


「家族だけじゃない……。」


「社員も、その家族も守らなければならない。」


拳を握る。


「だが……。」


「もし家族を失ったら……。」


苦しそうに目を閉じる。


社長は一人、答えの出ない選択に苦しんでいた。


───


能力犯罪総合対策本部。


御堂と篠宮は、回収したナイフを分析室へ持ち込んでいた。


研究員が静かに口を開く。


「通常の金属ではありません。」


「成分そのものが変質しています。」


御堂が目を細める。


「人工合金か?」


研究員は首を横へ振った。


「いいえ。」


「このような金属は存在しません。」


篠宮が静かに言う。


「能力……ですか。」


研究員は頷いた。


「物質を特殊な金属へ変化させる能力者がいる可能性があります。」


御堂は腕を組んだ。


「さらに、この精度の武器を製造できる能力者もいるかもしれんな。」


篠宮は息を呑む。


「エデンは……。」


「私たちが想像している以上に大きな組織かもしれません。」


御堂は静かに頷いた。


「幹部だけでは終わらない。」


「まだ戦力を隠している。」


───


その頃。


イコル・ヤーレン博士は、古い喫茶店を訪れていた。


向かいには白髪の老人が座っている。


「久しぶりだな。」


博士が静かに切り出す。


「蓬莱のことを聞きに来た。」


老人はコーヒーカップを置いた。


「まだ彼を追っているのか。」


博士は頷く。


老人は遠くを見つめるように話し始めた。


「蓬莱は能力そのものを憎んでいたわけじゃない。」


「能力によって、人間らしさが失われることを恐れていた。」


「努力すること。」


「支え合うこと。」


「失敗から学ぶこと。」


「能力が全てを解決する世界になれば、人は人でなくなる。」


博士は静かに目を閉じた。


「……あいつらしい。」


───


夕方。


学校帰り。


湊が歩いていると、前から見覚えのある青年が歩いてきた。


「あ。」


青年も湊に気付く。


「この前は財布を拾ってくれて、ありがとうございました。」


「いえ。」


湊は笑顔で答えた。


「困った時はお互い様だから。」


青年は少しだけ笑った。


「そう……ですよね。」


短い会話。


それだけで二人は別々の道を歩き始める。


お互い、まだ名前すら知らない。


───


廃工場。


ブレイブは今日の出来事を思い返していた。


「ヴォイアントさん。」


「本当にこれで世界は変わるんでしょうか。」


静寂が流れる。


やがてヴォイアントが答えた。


『世界を変えるのではない。』


『人々に思い出させるんだ。』


『人間とは何かを。』


ブレイブは静かに頷く。


まだ完全には理解できない。


それでも、その言葉は心に残った。


───


その時。


グラビティが通信を入れる。


「政府に新しい動きはありません。」


『そうか。』


少し間を置き、ヴォイアントが言った。


『グラビティ。』


「はい。」


『一人、調べてほしい人物がいる。』


グラビティは首を傾げた。


「誰ですか。」


ヴォイアントは静かに答えた。


『朝霧湊。』


その名を聞いた瞬間、グラビティの表情が変わる。


「……唯一の無能力者ですか。」


『そうだ。』


グラビティは即座に言った。


「無能力者など放っておけばいいでしょう。」


「我々の計画には無関係です。」


少しの沈黙。


そしてヴォイアントは静かに答えた。


『だからこそだ。』


『能力を持たず、この世界を憎まない人間。』


『そんな人間は、今の能力社会では極めて珍しい。』


『私は、彼に興味がある。』


グラビティは納得できない表情のまま頷いた。


「……了解しました。」


通信が切れる。


ヴォイアントは静かに窓の外を見つめた。


「朝霧湊。」


「君は、この世界をどう見る。」


その問いに答えられる者は、まだ誰もいなかった。


第44話へ続く

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