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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第四十二話 見えない包囲網


護送車は静かに高速道路を走っていた。


車内では社長の妻が幼い娘を抱きしめている。


「大丈夫……。」


「すぐ安全な場所へ着きますから。」


前方の車両では、副隊長・**篠宮玲司(しのみや れいじ)**が静かに目を閉じた。


「能力――空間把握(サーチ)。」


半径百メートル。


人の位置が脳内へ映し出される。


「異常なし。」


運転手が安堵の息を漏らす。


「さすが副隊長ですね。」


篠宮は小さく頷いた。


「油断は禁物です。」


「相手はエデンですから。」


───


その頃。


少し離れたビルの屋上。


グラビティが護送車を見下ろしていた。


隣にはゲイル。


そして少し後ろにはブレイブが立っている。


「本当に襲うんですか……?」


ブレイブが恐る恐る尋ねた。


グラビティは首を横へ振る。


「誘拐はしない。」


「今日は政府に、本気だと理解させる。」


ブレイブは少し安心したような表情を浮かべた。


そこへ通信が入る。


『ブレイブ。』


ヴォイアントだった。


「はい。」


『よく見ておけ。』


『恐怖とは、人を傷つけることではない。』


『"いつでも奪える"と理解させることだ。』


ブレイブは黙って頷いた。


まだその言葉の意味を完全には理解できなかった。


───


護送車がトンネルを抜けた瞬間。


「……!」


篠宮が目を開く。


「左前方!」


「高速接近!」


護衛車両が急停止する。


次の瞬間。


ヒュオォォッ!!


猛烈な突風が道路を吹き抜けた。


ガシャァァン!!


ガードレールが大きくひしゃげる。


「敵襲!」


警察官たちが一斉に身構える。


ビルの上には一人の影。


ゲイルだった。


「こんにちは。」


「今日は挨拶だけだ。」


笑みを浮かべながら真空刃を放つ。


ズバァッ!!


警察車両のタイヤが切り裂かれた。


「撃て!」


警察官が叫ぶ。


しかしゲイルは風をまとい、一瞬で姿を消す。


「速い!」


篠宮が周囲を探知する。


「右!」


「いや、後ろ!」


「くっ……!」


あまりの速度に空間把握が追いつかない。


その時だった。


ドンッ!!


道路の中央へ何かが突き刺さる。


一枚のナイフ。


そこには一枚の紙が刺さっていた。


ゲイルの声だけが風に乗って響く。


「七十二時間。」


「忘れるな。」


そのまま風と共に姿を消した。


「逃がすな!」


警察車両が動き出そうとする。


しかし篠宮が手を上げた。


「待て!」


「追うな!」


「これは誘導だ!」


隊員たちが動きを止める。


篠宮は紙を拾った。


そこには一行だけ書かれていた。


『次は失敗しない。』


護衛車内では社長の妻が娘を抱き締め震えていた。


社長も青ざめた表情で拳を握る。


「本当に……。」


「来たのか……。」


───


学校。


昼休み。


教室のテレビには速報が流れていた。


『社長一家を護送中の警察車列がエデンと思われる人物に襲撃されました。』


教室がざわつく。


「またエデンか!」


「警察まで手玉に取ってる……。」


小春は不安そうに画面を見つめた。


「もう止められないのかな……。」


湊は静かに首を振る。


「止められる。」


「止めなきゃいけない。」


そして小さく呟く。


「能力が悪いわけじゃない。」


「使う人が悪いだけなんだ。」


少し間を置いて続ける。


「でも……。」


「エデンも最初から犯罪をしたかったわけじゃない気がする。」


「どうして、こんな方法しか選べなかったんだろう……。」


小春はその横顔を静かに見つめていた。


───


廃工場。


ヴォイアントは目を閉じていた。


ゆっくりと視線を動かす。


その先には学校の教室。


一人の少年が映る。


「……朝霧湊。」


机の上にはニュース記事。


『唯一、能力薬が効かなかった少年』


銀行事件以降、その存在は何度も報道されていた。


ヴォイアントはその記事を見た時から、湊に興味を持っていた。


「唯一の無能力者。」


「それなのに……能力者を憎んでいない。」


静かに目を細める。


「君は、この世界をどう変える。」


窓の外では夕日が沈み始めていた。


そしてヴォイアントは静かに立ち上がる。


「……そろそろ会う時が来るかもしれない。」


第43話へ続く

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