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当たり前じゃない世界  作者: 鳳蓮荘
第2章 動き出す世界
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第三十八話 次なる標的


銀行強盗事件から二日。


政府は全国に警戒令を発令した。


銀行、空港、駅、発電所などの重要施設には能力犯罪総合対策本部の隊員が配置され、各地で警備が強化されていた。


ニュースでは連日、エデンの話題が報じられている。


『政府は、テロ組織"エデン"の行方について情報提供を呼びかけています。』


『能力犯罪総合対策本部は、四名の行方を追っていますが、現在も足取りは掴めていません。』


───


能力犯罪総合対策本部。


大型モニターには、日本地図と数え切れないほどの情報が表示されていた。


「全国の監視カメラを解析しましたが、有力な手掛かりはありません。」


「銀行データを奪われたことで、企業や政府機関への二次被害も想定されます。」


隊員の報告を聞き終えた御堂が静かに口を開く。


「エデンの狙いは銀行じゃない。」


部屋が静まり返る。


「奴らには次がある。」


「全企業へ警戒を呼びかけろ。」


「特に政治家との繋がりが深い企業を重点的に警護する。」


「はっ!」


隊員たちは一斉に動き始めた。


御堂はモニターに映るエデンの四人を見つめる。


「次は必ず止める。」


───


昼休み。


事件の話題は学校中に広がっていた。


「また事件が起きたらどうしよう……。」


「最近怖くて夜も眠れないよ。」


「能力なんてなければ良かったのかな……。」


教室のあちこちから不安の声が聞こえる。


保護者からも学校へ問い合わせが相次ぎ、教師たちは対応に追われていた。


湊は黙ってその様子を見つめていた。


一人の男子生徒が言う。


「能力があるから、こんな事件が起きるんだ。」


すると別の生徒が首を横に振った。


「でも、能力があるから助かった命もあるだろ。」


教室が静まり返る。


湊はゆっくりと口を開いた。


「能力が悪いんじゃない。」


全員の視線が湊へ向く。


「使う人が、どう使うかだと思う。」


「包丁だって料理にも使えるし、人を傷付けることもできる。」


「能力も、それと同じなんじゃないかな。」


誰も反論できなかった。


小春は優しく微笑む。


「私もそう思う。」


その言葉に、教室の空気が少しだけ和らいだ。


───


その頃。


人気のない廃工場。


エデンの四人が机を囲んでいた。


ノイズがパソコンを操作する。


「銀行から入手したデータの解析が終わりました。」


画面には複数の企業名と政治家の名前が並ぶ。


「政治家への違法献金。」


「架空会社を利用した資金洗浄。」


「裏金の流れも確認できました。」


ゲイルが鼻で笑う。


「随分と汚ぇ連中だな。」


グラビティは静かに資料へ目を落とした。


「能力社会を腐らせているのは、能力だけじゃない。」


「人間の欲だ。」


スティールが短く尋ねる。


「標的は?」


グラビティは一つの企業名を指差した。


「ここだ。」


「だが、その前に仲間を集める。」


三人がグラビティへ視線を向ける。


「能力社会に絶望した者は少なくない。」


「能力で差別された者。」


「能力犯罪で家族を失った者。」


「能力を利用され、捨てられた者。」


「そういう人間は必ずいる。」


ノイズが頷く。


「候補者の調査を始めます。」


グラビティは静かに続けた。


「思想に共感する者だけでいい。」


「数はいらない。」


「覚悟を持つ者だけを迎え入れる。」


ゲイルが口角を上げる。


「ようやく組織らしくなってきたな。」


グラビティは再び企業名へ視線を落とした。


「まずは、この企業に選択肢を与える。」


ノイズがキーボードを叩き始める。


「メールを送信します。」


件名


『忠告』


本文


«あなた方が政治家へ違法な資金提供を行っていた証拠は、すべてこちらが入手した。»


«七十二時間以内に我々の要求を受け入れろ。»


«拒否した場合、証拠は全世界へ公開する。»


«――エデン»


送信ボタンが押された。


時計の針は、午後十一時五十八分を指していた。


───


その夜。


イコル・ヤーレン博士は研究室の大型モニターを見つめていた。


画面には、エデンの事件資料が映し出されている。


「……このままでは、多くの人間が犠牲になる。」


博士は引き出しから古びたファイルを取り出した。


そこには、


『極秘』


の文字。


博士は小さく息を吐く。


「私も動くしかないようだ。」


研究室の灯りだけが、静かに揺れていた。


第39話へ続く

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