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第二十八話 現場


翌朝。


育成プログラム本部。


第二段階訓練場。


七人は、いつもより早い時間に集合していた。


昨日。


第二段階への参加が決まったばかり。


誰もが少しだけ緊張した表情をしている。


やがて。


日下部と富山美鈴が訓練場へ入ってきた。


「整列。」


七人が一斉に並ぶ。


日下部は全員を見渡した。


「今日から第二段階。」


「実地適応訓練を開始する。」


静かな空気が流れる。


富山が一歩前へ出た。


「第二段階では、訓練施設の外へ出ます。」


「現場には、正解も、やり直しもありません。」


穏やかな口調だった。


だが、その言葉には重みがあった。


「そして。」


富山は七人を見る。


「皆さんに一番最初に覚えてほしいことがあります。」


少しだけ間を置く。


「まず、自分が生き残ってください。」


七人の表情が変わる。


「人を助けたい。」


「その気持ちは、とても大切です。」


「でも。」


「自分が倒れてしまえば。」


「助けられる命も助けられません。」


「自分を守ること。」


「それも、人を助けるために必要な力です。」


誰も言葉を発しない。


富山は微笑んだ。


「難しいことですが。」


「少しずつ覚えていきましょう。」


日下部が口を開く。


「今日の訓練場所は。」


「土砂災害訓練区域。」


「実際の地形を再現した演習場だ。」


前方のモニターに映像が映る。


山道。


崩れた斜面。


埋まった道路。


倒木。


「今回の目的は。」


「能力を見せることではない。」


「現場を見ること。」


「判断すること。」


「そして、生きて戻ることだ。」


日下部は七人を見る。


「移動する。」


訓練車両が演習場へ向かう。


車内には緊張した空気が流れていた。


窓の外には山々が広がる。


やがて車が止まった。


目の前には広大な演習区域。


本物の土砂災害現場と見間違えるほど精巧だった。


富山が口を開く。


「今日の訓練は二班に分かれて行います。」


「第一班。」


「九条。」


「神童。」


「朝霧。」


「第二班。」


「蒼井。」


「黒崎。」


「如月。」


「天城。」


神童が眉を動かす。


「九条が班長か。」


富山は穏やかに頷いた。


「はい。」


「今回は九条くんにお願いします。」


「理由は一つ。」


「能力の強さと。」


「指揮を執る力は別だからです。」


神童は何も言わない。


富山は続けた。


「神童くん。」


「災害現場では、一人が強くても救えません。」


「周りを見て。」


「周りを活かせる人が必要です。」


少しだけ沈黙が流れる。


やがて神童は息を吐いた。


「……分かった。」


九条が神童を見る。


「頼むぞ。」


「言われなくても分かってる。」


二人は小さく笑った。


富山も微笑む。


「それでは。」


「訓練開始です。」


二班は別々のルートへ向かった。


第一班。


九条を先頭に歩く。


神童が周囲を見渡す。


湊は少し後ろを歩きながら、周囲を観察していた。


九条が振り返る。


「朝霧。」


「はい。」


「俺たちは能力に目が行きがちだ。」


「だから。」


「能力に頼らないお前の目を借りたい。」


「気付いたことは、何でも言ってくれ。」


「分かった。」


湊は頷いた。


日下部の言葉を思い出す。


『お前に見えるものがある。』


『お前に聞こえるものがある。』


自分にできること。


それを探せばいい。


三人は山道を進んでいく。


その時。


「……。」


湊が立ち止まった。


木の上にいた鳥たちが、一斉に飛び立った。


「どうした?」


九条が聞く。


「今。」


「鳥が……。」


神童が空を見上げる。


「鳥?」


その瞬間。


湊の頭に、小春の言葉がよみがえった。


『動物ってね。』


『人より先に危険に気付くことがあるんだよ。』


『だから、急に逃げ出したり鳴き止んだりした時は、周りをよく見た方がいいかも。』


湊は斜面を見る。


風は弱い。


それなのに。


土が。


ほんの少しだけ流れている。


「……。」


胸騒ぎがした。


その時だった。


無線から声が聞こえる。


『第二班より本部。』


『これより予定ポイントへ――』


ザーッ……


突然。


無線が途切れた。


「……?」


九条が無線を確認する。


「第二班?」


応答はない。


「第二班、応答してくれ。」


沈黙。


もう一度呼びかける。


「第二班!」


返事は返ってこない。


その時。


湊はもう一度、斜面を見た。


さっきより。


土が流れている。


鳥の姿も、もうない。


「九条さん。」


「どうした?」


「この斜面。」


「さっきより動いてます。」


九条が斜面を見る。


神童も視線を向けた。


次の瞬間だった。


ズズズ……


小さな音が響く。


九条の表情が変わる。


「全員下がれ!」


さらに。


ズズズズズ……


音は大きくなっていく。


遠くで富山の声が響いた。


「全班、安全確保!」


山肌が。


ゆっくりと動き始めていた。


第28話 現場 完

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