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第二十九話 初動


ズズズズズ……


山肌がゆっくりと動き始める。


「全員下がれ!」


九条の声が響く。


湊と神童はすぐに後方へ飛び退いた。


その直後。


ドサッ!


斜面の一部が崩れ落ちる。


土煙が舞い上がり、視界が一瞬白く染まった。


「大丈夫か!」


九条が二人を見る。


「大丈夫です!」


「問題ねぇ。」


神童はすぐに斜面へ視線を戻した。


「……本当に崩れた。」


九条も険しい表情で山肌を見つめる。


訓練とはいえ。


危険は本物だった。


その時。


無線から富山の声が聞こえた。


『第一班、状況を報告してください。』


九条は無線を取る。


「第一班です。」


「こちらは全員無事。」


「小規模な土砂崩れを確認しました。」


『了解しました。』


『第二班との通信は、まだ回復していません。』


九条の表情が変わる。


「まだですか。」


『現在、通信の回復を試みています。』


『第一班はその場で待機してください。』


通信が切れる。


神童が一歩前へ出た。


「待機?」


「第二班が危ないんだろ。」


「助けに行くぞ。」


九条は首を横に振る。


「行く。」


神童の表情が少し緩む。


しかし。


九条は続けた。


「でも。」


「今じゃない。」


「何でだ!」


神童の声が響く。


「今動けば。」


「俺たちまで巻き込まれる可能性がある。」


「そんなこと言ってる間に!」


「第二班は助けを待ってるかもしれねぇ!」


神童は拳を握る。


九条は冷静だった。


「だから助ける。」


「でも。」


「全員で帰るために助ける。」


静かな言葉だった。


しかし。


その一言には班長としての覚悟があった。


神童は悔しそうに歯を食いしばる。


湊は二人のやり取りを見つめていた。


助けたい。


その気持ちは神童と同じだった。


でも。


富山教官の言葉が頭をよぎる。


『まず、自分が生き残ってください。』


その時だった。


湊は周囲を見回した。


「……。」


「九条さん。」


「どうした?」


「もし。」


「また崩れたら。」


「この道は使えません。」


九条は湊の視線を追う。


一本道だった山道。


土砂が少し崩れれば。


完全に塞がれてしまう。


「反対側なら。」


「まだ通れます。」


湊が指差す。


木々の間。


少し遠回りにはなるが、安全そうな斜面が見えた。


九条は頷く。


「ありがとう。」


「助かった。」


その瞬間。


無線が鳴る。


ザーッ……


『……い……は……』


ノイズが混じる。


『……助……』


三人の表情が変わる。


九条が無線を握り締めた。


「第二班!」


返事はない。


もう一度。


「第二班、応答しろ!」


ザーッ……


再びノイズだけが流れる。


だが。


確かに聞こえた。


「助……」


誰かの声だった。


九条は決断する。


無線を握ったまま。


「第一班より本部。」


「状況が変わりました。」


「第二班から断続的な通信を確認。」


「救助へ向かいます。」


数秒の沈黙。


やがて。


富山の声が返ってきた。


『……許可します。』


『ただし。』


『必ず全員で戻ってきてください。』


九条は小さく頷く。


「第一班。」


「救助へ向かう。」


三人は力強く駆け出した。


第29話 初動 完

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