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第二十七話 七人


放課後。


授業を終えた湊は、鞄に教科書をしまっていた。


その時。


机の上に置いていた端末が震えた。


「……?」


画面には、一件の通知。


差出人は。


育成プログラム本部。


湊は通知を開いた。


『第一段階修了者へ』


『本日十八時』


『育成プログラム本部、第三訓練室へ集合すること』


『第一段階の総評及び、第二段階について説明を行う』


「第二段階……。」


湊が小さく呟く。


「湊くん。」


顔を上げると、小春が机の前に立っていた。


「今日も育成プログラム?」


「うん。」


湊は端末の画面を見せる。


「招集が来た。」


「第一段階の総評と、第二段階の説明だって。」


「第二段階……。」


小春の表情が、少しだけ曇る。


「今度は何をするんだろうね。」


「分からない。」


湊は端末を鞄にしまった。


「でも、行けば分かると思う。」


「そっか。」


小春は少し笑う。


「頑張ってね。」


「うん。」


湊は鞄を持って立ち上がった。


「じゃあ。」


少しだけ間を置く。


「また明日。」


小春の表情が柔らかくなる。


「うん。」


「また明日。」


湊は教室を出た。


育成プログラム本部。


第三訓練室。


集合時刻の十分前。


湊が扉を開ける。


「失礼します。」


部屋の中には、すでに六人が集まっていた。


九条。


蒼井。


如月。


黒崎。


天城。


そして、輝羅。


「お。」


蒼井が湊を見る。


「朝霧。」


「久しぶり。」


「数日しか経ってないけど。」


湊が答えると、蒼井が笑った。


「確かに。」


九条も軽く手を上げる。


「お疲れ。」


「お疲れ。」


黒崎は椅子に座ったまま、湊へ視線を向ける。


「時間通りだな。」


「まだ十分前だけど。」


「遅れるよりはいい。」


「黒崎はいつからいるの?」


「十五分前だ。」


「早いね。」


その横で、天城が椅子の背もたれに寄りかかる。


「私は二十分前に着いたよ。」


黒崎が天城を見る。


「二十分前に着いて、十分間廊下を迷っていただろ。」


「迷ってないよ。」


「探検してたの。」


「同じ階を三周することを、普通は探検とは言わない。」


「黒崎くんは細かいなあ。」


「お前が適当すぎるんだ。」


蒼井が笑う。


九条も、小さく息を漏らした。


前なら。


湊は少し離れた場所に座っていた。


会話に入ることもなく。


ただ、六人の能力者を見ていた。


けれど今は。


誰も湊を見て、無能力者が来たとは思わない。


湊も、能力者たちの中へ入ったとは思わなかった。


空いている椅子へ向かう。


その途中。


「朝霧。」


如月が声をかけた。


「何?」


如月は、湊の顔をじっと見ている。


「……。」


「どうしたの?」


「少し変わった。」


「え?」


「何が?」


如月は少し考える。


「顔。」


「顔?」


「うん。」


「前より。」


また少し考える。


「人がいる顔。」


「……どういう意味?」


「分からない。」


「分からないの?」


「でも。」


如月は湊を見つめたまま続ける。


「前は、一人でいる顔だった。」


湊は何も言えなかった。


如月は、それ以上説明しない。


「如月。」


黒崎が声をかける。


「本人が困っている。」


「そう?」


「そうだ。」


「ごめん。」


如月は素直に謝った。


「いや。」


「大丈夫。」


湊は椅子に座る。


その様子を、輝羅が黙って見ていた。


「何?」


湊が聞く。


「別に。」


輝羅は腕を組む。


「お前も少しは慣れたみたいだな。」


「何に?」


「ここにいることに。」


「……そうかも。」


湊が答えると、輝羅は少しだけ口元を緩めた。


時計の針が十八時を指す。


扉が開いた。


日下部が入ってくる。


七人の空気が変わった。


「全員いるな。」


「はい。」


日下部は七人の前に立ち、一人ずつ顔を見る。


「九条。」


「はい。」


「蒼井。」


「はい。」


「如月。」


「はい。」


「黒崎。」


「はい。」


「天城。」


「はい。」


「神童。」


「ああ。」


「朝霧。」


「はい。」


日下部は端末を机に置いた。


「第一段階。」


「基礎適応訓練は終了した。」


七人が黙って話を聞く。


「最初に言っておく。」


「第一段階に、合格も不合格もない。」


湊が日下部を見る。


「お前たちは能力も違う。」


「考え方も違う。」


「得意なことも、苦手なことも違う。」


日下部は続ける。


「同じ基準で順位をつける意味はない。」


「国が必要としているのは、同じ能力者ではない。」


「自分に何ができるのかを理解し。」


「それを正しく使える人間だ。」


部屋の中が静かになる。


「第一段階で、お前たちはそれぞれの能力と。」


「それぞれの役割を学んだ。」


日下部は九条を見る。


「九条。」


「はい。」


「お前の念力は、力の強さだけで判断するな。」


「一度に何を動かせるのか。」


「どこまで正確に扱えるのか。」


「そこを理解しろ。」


「はい。」


次に、蒼井を見る。


「蒼井。」


「はい。」


「お前の超怪力は、救助にも破壊にも使える。」


「力を出すことより。」


「力を止めることを覚えろ。」


「はい。」


「如月。」


「はい。」


「氷は、周囲の環境まで変える。」


「目の前だけを見るな。」


「全体を見ろ。」


「はい。」


「黒崎。」


「はい。」


「お前は慎重だ。」


「それは長所でもある。」


「だが、判断が遅れれば。」


「助けられるものも助けられない。」


黒崎は少しだけ目を伏せる。


「はい。」


「天城。」


「はい。」


「感覚だけで成功したことを、実力だと思うな。」


「なぜ成功したのか。」


「自分で説明できるようになれ。」


「はーい。」


日下部が眉を寄せる。


「返事。」


「はい!」


天城が姿勢を正す。


蒼井が笑いをこらえた。


「神童。」


「ああ。」


「お前の雷は強力だ。」


「だが、一人で全てを解決しようとするな。」


「周囲を信じろ。」


輝羅は少し黙る。


「……分かってる。」


「分かっているなら、行動で示せ。」


「ああ。」


最後に、日下部が湊を見る。


「朝霧。」


「はい。」


「能力がないことを、自分から外れる理由にするな。」


「お前に見えるものがある。」


「お前に聞こえるものがある。」


「それを自分で見失うな。」


湊は、真っ直ぐ日下部を見る。


「はい。」


日下部は七人を見渡した。


「課題は多い。」


「まだ、チームと呼べるほどではない。」


天城が小さく呟く。


「厳しいなあ。」


「何か言ったか。」


「何も言ってません。」


日下部は続ける。


「だが。」


「第一段階の最終訓練で、お前たちは一人ではできないことを。」


「七人で成し遂げた。」


湊は周りを見る。


九条。


蒼井。


如月。


黒崎。


天城。


輝羅。


六人の能力者と。


一人の無能力者。


そうではない。


ここにいるのは。


七人。


「よって。」


日下部が告げる。


「七人全員。」


「第二段階へ進む。」


誰も声を上げなかった。


それでも、部屋の空気が少しだけ緩む。


蒼井が息を吐いた。


「よかった。」


九条も頷く。


「まあ、そうなると思ってたけど。」


黒崎が九条を見る。


「今の発言は余計だと思う。」


「冗談だよ。」


天城が笑う。


「第二段階かあ。」


「何するんだろう。」


日下部が机を軽く叩いた。


「静かにしろ。」


七人が前を向く。


「これから、第二段階について説明する。」


日下部が端末を操作する。


前方の画面に文字が表示された。


『第二段階』


『実地適応訓練』


「実地……。」


湊が呟く。


「第一段階では、訓練施設の中で基礎と連携を学んだ。」


「第二段階では、施設の外へ出る。」


七人の表情が変わる。


「ただし、具体的な訓練内容は今は説明しない。」


天城が手を上げる。


「何でですか?」


「事前に内容を知れば、訓練にならないからだ。」


「抜き打ちってこと?」


「そう思っておけ。」


「ええ……。」


日下部は部屋の扉を見る。


「第二段階から、お前たちを担当する教官が増える。」


扉が開いた。


一人の女性が入ってくる。


柔らかな雰囲気。


穏やかな表情。


それでも、その場の空気を自然と引き締めるものがあった。


湊は、その女性に見覚えがあった。


以前。


国から復旧支援の要請が入った朝。


日下部の隣に立っていた女性教官。


富山美鈴。


避難訓練へ向かうメンバーを担当していた人物だった。


「富山教官!」


天城が明るい声を上げる。


富山は微笑んだ。


「お久しぶりです。」


黒崎が小さく頭を下げる。


「よろしくお願いします。」


如月も富山を見る。


「また会った。」


輝羅は腕を組んだまま、軽く会釈した。


富山は七人の前に立つ。


「改めまして。」


「富山美鈴です。」


「第二段階から、皆さんの訓練を担当します。」


「よろしくお願いします。」


「よろしくお願いします!」


七人の声が重なる。


富山は続ける。


「私の能力は。」


「シールドです。」


「シールド……。」


九条が小さく呟く。


蒼井も富山を見る。


湊も、その能力を聞くのは初めてだった。


避難訓練へ向かった四人は、驚いた様子を見せない。


富山は手のひらを前へ向けた。


「人や物を、外からの衝撃から守る壁を作ることができます。」


「私の役目は。」


「皆さんを守ることです。」


その言葉には、立っているだけで安心させるような強さがあった。


「ただし。」


富山の声が、少しだけ変わる。


「第二段階では、私が全てを守るわけではありません。」


七人が富山を見る。


「自分を守ること。」


「仲間を守ること。」


「そして。」


「守れない状況で、何を選ぶのか。」


部屋の空気が、再び引き締まった。


日下部が富山の隣に立つ。


「第二段階。」


「実地適応訓練。」


日下部は七人を見渡した。


「今までとは違う。」


第27話 七人 完

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