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第8話 慈善舞踏会の寄付名簿

北辺侯都の春季慈善舞踏会は、診療院のための寄付集めを名目に開かれた。


 けれど本当の目的はもう一つある。寄付名簿と配薬記録を同じ場へ引きずり出し、言い逃れできない形にすることだ。


 私はマルタに手伝ってもらい、名簿の写しを寄付額順ではなく患者番号順へ並べ替えた。同一患者が別名で三度現れていることが、一目で分かる。


「こういう並べ替えって、性格が出ますね」


「褒めているのかしら」


「少なくとも敵にはしたくないです」


 会場へ入ると、王都からの客としてエドガーとクラリッサが現れた。彼女は青いドレスに身を包み、今日も細い指先を震わせている。だが階段を上る足取りは軽い。


「レティシア様」


 クラリッサが小さく笑った。


「追放先でも、まだ帳簿遊びをなさっているのですね」


「病人の歩幅にしては速すぎるわ」


 私が答えると、彼女の笑みが一瞬だけ固まる。


 開会後、私は寄付責任者として壇上に立った。会場には領内貴族だけでなく、薬商会、教会、施療院関係者もいる。


「皆様の善意を、正しい患者へ届けるために」


 私は名簿の写しを掲げた。


「本年度寄付枠の照合結果をご報告します」


 ざわめきが起きる中、私は患者番号と寄付金額を読み上げた。クラリッサ名義、クリスティナ名義、C・V名義。全て同じ生年月日、同じ処方内容、同じ特別病室コードへ収束する。


 エドガーが立ち上がった。


「誤差だ。慈善名簿は匿名配慮がある」


「匿名なら生年月日と寝台番号が一致するはずはありません」


 私は静かに返す。


「これは配慮ではなく重複請求です」


 会場の空気が変わる。寄付に敏感な商会主たちが、一斉に顔を見合わせた。


 クラリッサは唇を噛み、細い声で言う。


「私は……言われた通りに署名しただけで」


 その言葉を聞いて、私は彼女が完全な被害者ではないと確信した。何に署名したかを知っている人間の言い方だったからだ。


 舞踏会が終わる頃には、北辺側へ傾いた視線がはっきり見えた。


 紙の一列が、人の空気を変える。その手応えを、私は久しぶりに感じていた。


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