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第7話 無口な辺境伯の朝薬湯

北辺診療院へ戻った翌朝、私は書庫の机でうたた寝していた。


 目を開けると、湯気の立つ茶杯が目の前に置かれている。乾姜と薄荷、それに少量の蜂蜜。喉の痛みが出る前の私にちょうどいい配合だ。


「勝手に飲ませる気ですか」


「倒れられると困る」


 ジークハルトは相変わらず無表情だったが、選ぶ薬草の細かさだけが妙に優しい。


「私の好みを覚えましたね」


「昨日、苦い茶を残しただろう」


 観察が細かい。そう思って少し可笑しくなる。


 私は薬湯を飲みながら、昨夜まとめた相関表を見せた。王都特別病室の補助金申請日と、北辺各村の薬不足日が見事に重なっている。


「寄付名目の送金先も、全部エルンスト薬商会を通っている」


「王都の誰が許可印を押した」


「副院長権限です。つまりエドガー」


 名前を口にした瞬間、胸の奥に冷たいものが落ちた。愛情が残っているわけではない。ただ、自分が十二年支えた仕事を、最も近い人間が壊していた事実が痛い。


 ジークハルトは何も慰めの言葉を言わなかった。その代わり、机の端へ新しい紙束を置く。


「村別の慈善寄付名簿だ。今朝届いた」


「……ありがとうございます」


「礼より先に読む顔をしている」


 言い当てられて、私は思わず笑った。


 名簿には貴族夫人たちの寄付額と、寄付対象患者の一覧が並んでいる。その中に、クラリッサの名が三度も現れた。病状が固定なのに、別人名義で重複補助を受けている。


「やはり彼女は、慈善の顔として利用されている」


「本人も理解しているか」


「半分は理解、半分は酔っているのでしょう」


 可哀想な病人でいれば、金も注目も婚約者も手に入る。その役を自分で降りる理由はない。


 私は茶杯を置いた。


「次は寄付名簿の発表の場です。人前で数字を合わせてみせましょう」


「舞踏会か」


「ええ。飾りの多い場所ほど、帳簿が映えます」


 ジークハルトは小さく息を吐いた。


「あなたは本当に、戦場を紙で作る」


「その代わり、傷は少なく済みます」


 そう答えると、彼は初めて、ほんのわずかに口元を緩めた。


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