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第5話 偽装療養の薬袋

翌朝、私は回収済みの空薬袋を一枚ずつ机へ並べていた。


 北辺診療院から出たはずの月白根の薬袋が、なぜか王都上流地区の配達印で封じ直されている。紐の結び方まで違う。


「薬袋を見て何が分かる」


 向かいに立つジークハルトへ、私は三枚の袋を差し出した。


「この二枚は本当に重症患者へ渡されたもの。開封跡が丁寧で、服用指示の追記がある。けれどこちらは中身だけ抜いて再封した袋です」


「理由は」


「香油の匂い」


 私は袋口を軽く開いた。


「月白根を飲む人にこんな甘い香りは移りません。王都の特別病室で使う寝具香です」


 マルタが息を呑んだ。


「じゃあ、ここの患者さんたちの薬を王都の誰かが使ってたってこと?」


「使っていたのではなく、使ったことにしていた可能性もあります」


 本当に病気の者は、薬を飲めば数日で数値が変わる。けれどクラリッサの経過表は、都合よく悪化も改善もしないまま横ばいだった。あれは病状ではなく、物語だ。


 昼過ぎ、北辺の小村フィルンから診療補助員が駆け込んできた。


「昨夜、高熱の子が出たのに、割り当て薬が届かなかったんです」


 私はすぐに村別配分表を確認した。その子の名は台帳から消され、代わりに王都向け慈善治療枠へ移されている。


「誰が移したの」


「王都薬商会から来た監査使いだと言っていました」


 私は拳を握りしめた。


 北辺の子どもが薬を待つ間に、王都では偽の病人が慈善を吸っている。


 怒りで胸が熱くなる一方、頭は妙に冷えていた。ここまでくれば偶然ではない。偽装療養を中心に、薬剤補助金、慈善名簿、特別病室の権限が一本の仕組みになっている。


「王都へ戻る前に、この村の記録を押さえます」


 私が言うと、ジークハルトは短く頷いた。


「馬を出そう。今日は私も同行する」


 その声は低いままだが、はっきり私の側に立っていた。


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