表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

第4話 冷たい診療院と足りない薬

北辺診療院は、王都の施療院よりずっと寒く、ずっと正直な場所だった。


 石造りの廊下には風が通り、薬庫の扉は軋み、待合室の長椅子には泥のついた靴の跡が並ぶ。けれど患者の顔は、飾られた病人よりもはるかに切実だった。


「咳止めは残り三日分です」


 案内役の看護主任マルタが、申し訳なさそうに言う。


「補助金申請は通っているのに、現物が来ないんです」


 私は薬庫台帳を受け取り、その場で頁を繰った。


 納品印はある。受領印もある。だが、同じ筆跡で日付だけがまとめて書き換えられている。しかも王都薬商会の印箱番号が、クラリッサの診断書に使われていた古い様式と一致した。


「ここでも同じ……」


「何か分かったの?」


 マルタの問いに、私は頷く。


「薬は届いています。ただし途中で抜かれている。台帳を整えている人間がいます」


 その日の午後、私はジークハルトの執務室で診療院の補助金記録を見た。領内の重症者数は前年より増えているのに、月白根や黒桂皮の消費先は王都の寄宿治療枠へ偏っている。


「王都へ流れているのですね」


「王立施療院の特別病室か」


 ジークハルトの声には、怒りより先に確認の冷静さがあった。


「ええ。少なくとも、誰かが北辺の重症者名義を使って補助金を抜いています」


 私は帳票の一角を指した。患者番号が飛んでいる。欠番になった者の名前だけが、後日まとめて削除されていた。


「実在患者の追跡が必要です。私に村の診療記録まで見せてください」


「すぐ手配する」


 彼は迷いなくそう言った。


 王都では、私が記録を疑うたびに感情論で押し返された。ここでは違う。見つけた不一致を、そのまま事実として扱ってくれる。


 その違いが、今の私にはひどくありがたかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ