第4話 冷たい診療院と足りない薬
北辺診療院は、王都の施療院よりずっと寒く、ずっと正直な場所だった。
石造りの廊下には風が通り、薬庫の扉は軋み、待合室の長椅子には泥のついた靴の跡が並ぶ。けれど患者の顔は、飾られた病人よりもはるかに切実だった。
「咳止めは残り三日分です」
案内役の看護主任マルタが、申し訳なさそうに言う。
「補助金申請は通っているのに、現物が来ないんです」
私は薬庫台帳を受け取り、その場で頁を繰った。
納品印はある。受領印もある。だが、同じ筆跡で日付だけがまとめて書き換えられている。しかも王都薬商会の印箱番号が、クラリッサの診断書に使われていた古い様式と一致した。
「ここでも同じ……」
「何か分かったの?」
マルタの問いに、私は頷く。
「薬は届いています。ただし途中で抜かれている。台帳を整えている人間がいます」
その日の午後、私はジークハルトの執務室で診療院の補助金記録を見た。領内の重症者数は前年より増えているのに、月白根や黒桂皮の消費先は王都の寄宿治療枠へ偏っている。
「王都へ流れているのですね」
「王立施療院の特別病室か」
ジークハルトの声には、怒りより先に確認の冷静さがあった。
「ええ。少なくとも、誰かが北辺の重症者名義を使って補助金を抜いています」
私は帳票の一角を指した。患者番号が飛んでいる。欠番になった者の名前だけが、後日まとめて削除されていた。
「実在患者の追跡が必要です。私に村の診療記録まで見せてください」
「すぐ手配する」
彼は迷いなくそう言った。
王都では、私が記録を疑うたびに感情論で押し返された。ここでは違う。見つけた不一致を、そのまま事実として扱ってくれる。
その違いが、今の私にはひどくありがたかった。




