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第36話 毒ではなく帳簿で囲む夜
雪橋で押さえた箱を囲み、私たちは診療院の書庫で徹夜した。
銀貨箱の納付印、鉱区契約書の日付、義援金振込控え、検疫補助の支払い表。全部を一列に並べると、金の流れが一本の縄みたいに見えてくる。
「ここで子爵家代理店へ入り、翌日に検疫局の義弟口座へ戻る」
私は赤鉛筆で線を引いた。
「そして同じ日に、旧坑の排水門修理費が計上されている」
マルタが疲れた顔のまま笑う。
「剣より怖い囲み方ね」
「帳簿は逃げませんから」
ジークハルトは隣で暖炉の火を足し、私の茶杯へ温い薬湯を注いだ。夜更けの書庫には紙の匂いと薬草の匂いが混ざり、前の事件の時とは違う静けさがあった。
あの時は、居場所を取り戻すための夜だった。今夜は、守るべき人たちのための夜だ。
「これで終わらせられる」
私がそう呟くと、ジークハルトが短く返す。
「あなたが始めた仕事だ。最後まで届く」
毒は水に混じった。けれど最後に相手を潰すのは、結局いつも帳簿だった。




