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第32話 偽りの死亡台帳

診察会の直後、ハルバーグ子爵側は『被害は誇張だ』と反論してきた。


 だから私は、次の帳面を開く。


「では死亡台帳を見ましょう」


 アイベン村の被害者として計上された六名。そのうち二名は、今朝私の前で水汲みをしていた。三名は隣村へ避難中、一名は昨年別件で亡くなっている。


 生者と死者を入れ替える台帳ほど、質の悪いものはない。


 書き換え箇所を拡大して示すと、会場の視線が一斉にブルーノと子爵家代官へ集まった。日付欄だけが新しいインクで上塗りされ、役場控えと筆圧が違う。


「死者が増えれば、緊急埋葬費も、移住補助金も増えます」


 マルタが悔しそうに唇を噛んだ。


「生きてる人までお金に変えたのね」


 私は台帳を閉じる手に力を込めた。


「記録を奪われるのは、名前を二度殺されるのと同じです」


 会場の空気が凍る。誰も軽い言葉を挟めなくなったのは、その通りだと分かったからだろう。


 ブルーノはまだ沈まない顔で言った。


「それでも最終判断は王都が行う」


「なら王都が来る前に、逃げ道をなくしておきます」


 数字の囲い込みは、もう終盤に入っていた。


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