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第30話 銀鉱山の裏水路

夜、旧銀鉱山の裏手へ回ると、封鎖されたはずの水門から細い水音がしていた。


 藪を分けて進むと、新しく削られた木杭と滑車が見える。誰かが夜だけ水路を開き、鉱滓まじりの排水を川へ流しているのだ。


「止めますか」


「今は記録が先です」


 私は測り棒で水位を記し、ジークハルトは水門の刻印を灯りで照らした。そこにあったのは、ハルバーグ子爵家の工区番号。閉山鉱区を再利用していた証拠だった。


 さらに坑道脇の小屋から、運搬日誌が見つかる。『防疫資材』『検疫補助燃料』の名目で、実際には精錬炭と排水処理石が動いていた。


「防疫予算で鉱山を回していたのね」


 私は日誌を閉じ、冷えた息を吐いた。


「村人の水を汚し、そのうえ補助金まで吸う。ひどい話です」


「だから終わらせる」


 ジークハルトの声は低いが、怒りを押し込めているのが分かった。私は水門の封印箇所を写し取り、明朝の封鎖命令案を書き始める。


 悪意は夜に動く。けれど夜に残る痕跡もある。それを拾えるなら、朝には必ず形になる。


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