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第28話 王都検疫官の白手袋

午後、王都からブルーノ・フェルデンが到着した。


 噂通りの白手袋、灰銀の外套、汚れを嫌う目つき。四十一歳の検疫官は、村より先に自分の靴へ砂が付くことを気にする男だった。


「北辺診療院主任薬歴官、レティシア・フォーゲル。封鎖解除は権限逸脱です」


「解除ではありません。対象を切り替えました」


「流行病の判断を薬歴官が?」


「症状と記録が矛盾しています」


 私が表を差し出すと、彼は一目だけ見て鼻で笑った。


「現場は数字遊びではない」


「だからこそ、現場を見てから話しています」


 白手袋の指先には、薄い青い封蝋が付いていた。王都式の文書に使う色ではない。港の差し止め箱で見たものと同じだ。


「その手袋、検疫局の蝋ではありませんね」


 ブルーノの指がわずかに止まる。


「記録の前に服飾観察まで?」


「仕事柄、手元はよく見ます」


 ジークハルトが一歩前へ出た。


「北辺の村を空にするなら、根拠を示せ。示せないなら帰れ」


 ブルーノは怒る代わりに微笑んだ。こういう男は、感情で崩れない分だけ厄介だ。


「では三日後、公開診察会で。あなた方が病ではないと証明できるなら、私は報告を改めましょう」


 挑発だった。けれどこちらにも都合がいい。公の場で崩せば、二度と同じ嘘は使いづらくなる。


 白手袋の検疫官は去り際、こう言った。


「数字は人を救いませんよ、薬歴官殿」


 私は即座に返した。


「間違った数字は、確実に人を殺します」


 その背中が一瞬だけ硬くなったのを、私は見逃さなかった。


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