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第25話 薬歴官は橋を止める

夕方、王都検疫局から二通目の命令書が届いた。


 内容は、アイベン村の完全退避と北辺診療院備蓄薬の追加徴発。熱病が広がったという前提で、村人を山向こうの仮収容地へ移すつもりらしい。


「このままでは病人より先に、水を飲んだ家族が倒れます」


 私は命令書を机へ置き、赤い差し止め印を押した。


「徴発拒否です。診療院の薬は北辺の患者に使います」


 役人が声を荒らげる。


「王都命令に逆らうのですか」


「病名が誤りなら、命令の前提が崩れます」


 私は補助金台帳、患者番号重複表、水質メモを順に並べた。言葉ではなく書類で囲むと、相手の顔色が変わるのが分かる。


 ジークハルトが静かに続けた。


「橋は今夜から封鎖する。ただし村人を閉じ込めるためではない。鉱山側の荷車を通さないためだ」


 それでようやく、役人たちは事態の向きが逆だと理解したらしい。封鎖されるべきは村ではなく、毒を運ぶ側だ。


 私は診療院の在庫板を書き換えた。


『熱病用 徴発停止』

『井戸汚染対策 優先』


 橋を止めるのは領主の仕事だ。けれど何を止めるべきか決めるのは、記録を読む者の仕事でもある。


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