第23話 検疫台帳の重複名
村役場の机に広げられた検疫台帳は、見た瞬間に不自然だった。
四十代の鉱夫、三十代の主婦、十代の見習い。それぞれの欄へ似たような症状が並ぶのに、患者番号だけが二つの村で重複している。アイベン村の六番患者が、隣のラッセ村では八番患者として再登場していた。
「人数を膨らませていますね」
私が言うと、村長が青い顔で額を押さえた。
「検疫官が『王都式の転記だ』と……うちでは逆らえませんでした」
台帳の余白には、緊急補助金と隔離小屋設営費の欄まである。患者を増やせば、流れる金も増える仕組みだった。
「村に隔離小屋は?」
「山道の先に三棟だけです。でも十四人も入る広さはありません」
私はページをめくりながら、昨夜の赤札と照らし合わせた。高熱患者十四名、隔離食二十人分、医師宿泊費三名分。けれど実際に村へ来た医師はいない。
数字だけで作られた流行病だ。
ジークハルトが低く言う。
「誰が得をする」
「補助金を受け取る者と、村を空にしたい者です」
川沿いの村が封鎖されれば、交易路は止まり、土地は安くなる。その先に何があるかは、まだ分からない。だが台帳の書きぶりを見る限り、現場を知らない人間の仕事ではない。
最後のページに押された私印は、王都検疫官ブルーノ・フェルデン。白手袋で有名な、形式主義の男だと聞いたことがある。
「形式で村を殺すつもりなら、相手が悪かったわね」
私は台帳を閉じた。数字を膨らませた者には、数字で返す。それが私のやり方だ。




