第22話 封鎖村から届いた赤札
アイベン村へ続く石橋の手前には、赤い封鎖縄が張られていた。
関所番は私たちを見るなり慌てて帽子を取る。だが彼の後ろに積まれた薬箱は、熱病用ではなく鎮静茶と包帯ばかりだった。
「村人は高熱だと言ったのでは?」
「は、はい。ただ、みなさん熱が上がったり下がったりで……それより手の震えや吐き気がひどく」
私はジークハルトと目を合わせる。伝染病なら最初に出るのは咳と持続熱だ。震えと吐き気ばかりが揃うのはおかしい。
村へ入ると、戸口に座る大人たちの顔色は悪いが、寝込んでいる者は少ない。子どもは指先のしびれを訴え、老人は口の中が苦いと言った。どれも人から人へ移る病の広がり方ではない。
「井戸の水は?」
「三日前から鉄みたいな味がするよ」
若い母親が差し出した水桶から、かすかな金属臭が立った。私は布で濾し、携帯していた試薬草を落とす。液面が鈍く黒ずむ。
「水です」
「病ではなく?」
「病に見せかけた何かです」
封鎖を命じた文書を確かめると、王都検疫局の名で出された割に、検査医の署名欄だけが空欄だった。急いで作られた命令書だ。
私はその場で封鎖縄を半分だけ解かせた。
「完全封鎖はしません。井戸を止め、別水源の給水を始めます。熱病扱いは保留」
関所番が青ざめる。
「でも、王都の命令が」
「責任は私が持ちます」
言い切った瞬間、背後でジークハルトが短く頷いた。記録が先、恐れは後。そう決めてしまえば、足は止まらない。




