第14話 病室に来た嘘
王都へ最終監査へ向かう前夜、クラリッサが北辺診療院へ現れた。
厚い外套をまとい、青白い化粧で頬を薄くしている。けれど長旅の疲れはなく、侍女を二人従えた歩き方も安定しすぎていた。
「レティシア様と二人で話したいの」
案内室で向かい合うと、彼女は初めて泣かない顔を見せた。
「私だって、最初は少し倒れるふりをするだけだったの」
「それで終わらなかった」
「エドガー様が、あなたより私のほうが守る価値があるって言ってくれたから」
私は静かに息を吐く。
「価値を測るために、北辺の患者の薬を使ったの?」
「私は本当に苦しい時もあったのよ。誰かの中心でい続けないと、消えてしまいそうで」
その言葉だけは少しだけ本音に聞こえた。けれど本音があるからといって、他人から薬を奪っていい理由にはならない。
私は机の上へ一枚の処方比較表を置く。
「あなたが飲んだとされる量の月白根を、本当に病人が飲めば脈拍と体温が必ず変わる。あなたの記録には一度もその変化がない」
クラリッサの目が揺れた。
「だから?」
「明日、王都で全部出します」
「エドガー様はあなたを愛していなかったのに?」
刺すような声だった。けれど私はもう、そこを急所にはされない。
「ええ。だからもう、あの人に証明してもらう必要がないの」
沈黙の後、クラリッサは笑った。ひどく歪んだ笑いだった。
「あなた、変わったわ」
「元に戻っただけよ」
彼女が去った後、案内室の扉の外でジークハルトが待っていた。
「聞いていたのですか」
「必要なら入るつもりだった」
その答えに、私は小さく首を振る。
「大丈夫です」
「顔色は悪い」
「怒っているだけです」
そう言うと、彼は黙って私の肩へ外套を掛けた。
もう一人で耐える必要はないのだと、その重みが教えてくる。




