第15話 朝焼けの薬草園
王都へ向かう朝、私は診療院裏の薬草園に立っていた。
夜明け前の薄い光の中で、霜をかぶった薄荷と乾姜の葉が揺れている。北辺へ来てからの数週間は短いはずなのに、王都にいた頃よりずっと長く感じられた。
「眠れなかったか」
ジークハルトが背後から声をかける。手には、例の朝薬湯。
「少しだけ」
私は受け取り、一口飲んだ。今日は蜂蜜がいつもより少ない。甘すぎると集中力が鈍る、と私が以前ぼやいたのを覚えていたのだろう。
「気を遣いすぎです」
「あなたが倒れると困る」
前と同じ言葉なのに、今は違う響きに聞こえた。
「事件が終わったら、私は王都へ戻るかもしれません」
言いながら、自分でも胸が少し痛んだ。
ジークハルトはすぐには答えない。霜の乗った葉先を指で軽く払ってから、ようやく口を開いた。
「知っている」
「引き留めませんか」
「あなたの仕事は、あなたが決めるべきだ」
優しすぎる答えだった。だからこそ、少しだけ悔しい。
「でも」
彼はそこで言葉を切り、私を見る。
「北辺に残る理由が、仕事以外にもできるなら嬉しい」
朝焼けの色より、その一言のほうがずっと熱かった。
私は茶杯を両手で包み、視線を落とす。
「そんなことを言う人だとは思いませんでした」
「私も、ここまで言うつもりはなかった」
無口な人の精一杯だと分かるから、余計に胸へ響く。
王都での最後の戦いを前にして、私は初めて、勝った後の未来を考えてしまった。




