第13話 王都薬商会の裏帳簿
次に押さえるべきは、薬の流れの中継点だった。
王都と北辺をつなぐエルンスト薬商会には、正規帳簿と別に、寄付配分を調整する裏帳簿がある。そうマルタの古い知人が教えてくれた。
私は商会の出張庫へ監査に入り、在庫札の束を一枚ずつ照らした。表では北辺へ出荷、裏では王都特別病室へ再配分。番号だけをずらして帳尻を合わせる、あまりにも分かりやすい手口だ。
「主任殿、そこまで見られると困る」
庫番の男が青ざめた顔で立っている。
「困るのは患者です」
私は箱の底から、二冊目の帳簿を引き抜いた。表紙のない薄冊子。そこには、クラリッサの名を『青室』と置き換えた特別配送記録が並び、承認欄にはエドガーの私印が残っている。
さらに支払欄には、寄付金の一部が『謝礼』として数名へ分散されていた。事務長、庫番、特別病室係。小口に見せるための綺麗な切り方だ。
「これは誰の指示?」
「副院長と……ヴェルナー嬢の侍女から」
庫番は震える声で答えた。
「でも、最初に持ち込んできたのは副院長です」
私は帳簿を閉じる。
もう十分だ。クラリッサは被害者のふりをしていたが、少なくとも配薬名義の偽装には関わっている。
商会を出ると、冬の終わりの風が街路を抜けた。私は少しだけ立ち止まり、息を整える。
「疲れたか」
隣でジークハルトが問う。
「ええ。でも、終わりが見えてきました」
「なら、最後のために休め」
彼が差し出した紙袋には、温かい焼き林檎が入っていた。いつ用意したのか分からない。
「辺境伯は、どうしてこういう時だけ先回りするのです」
「あなたが食事を抜きやすいと分かった」
無口なくせに、こういう観察だけは逃さない。
私は焼き林檎を受け取り、小さく笑った。
誰かに世話を焼かれることに、こんなに抵抗がなくなったのはいつからだろう。




