第11話 公開問診会
北辺診療院では、月に一度、主要寄付者向けの公開問診会を開く。
私はその場で、重複患者と虚偽診断の差を示すことにした。人前で感情をぶつける必要はない。実在患者と偽装療養者の記録を並べればいい。
会場には領内の夫人たち、薬商会、修道院関係者が集まった。王都からはエドガーの代わりに監査役が来ている。クラリッサ本人も、顔色の悪い化粧で現れた。
「本日は寄付の適正使用をご説明します」
私は最初に、実在患者アンナの診療経過表を示した。発熱、投薬、数値変動、回復までがきれいにつながる。
次にクラリッサの表を出す。高熱は続くのに脈拍は安定、薬の増減もなく、検査値の記載欄だけが空白で補われている。
「これは病状の記録ではありません。役割の維持です」
会場がざわめく。
クラリッサは悲鳴のような声を上げた。
「私だって苦しかった! エドガー様が、私が倒れていれば全部うまくいくって……」
「なら、あなたは知っていたのですね」
私が静かに問うと、彼女は唇を震わせた。
「少しだけ……少しだけ大げさにしていただけ」
「北辺の患者の薬を奪ってまで?」
返事はなかった。
代わりに監査役が青ざめた顔で私を見る。
「原本処方箋を確認したい」
「その必要があります」
私は頷いた。
「ここにあるのは写しです。原本が出れば、誰が後から改ざんしたかもっと明確になります」
クラリッサはその場で崩れるように椅子へ座り込んだ。
可哀想な病人という仮面が、とうとう人前で割れた。
けれど私は勝った気がしなかった。本当に欲しいのは、彼女の転落ではなく、奪われた患者たちの薬と、自分の仕事を戻すことだけだったから。




