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【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

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追懐メルキオール7


 会議室には、王竜の群れの移動経路上に存在する領地の領主たちが集められていた。

 彼らは長方形の重厚なテーブルを挟み、長辺の中央付近の席をふたつ空けて、向かい合って座っていた。

 私は彼らに一礼し、中央の席に座った。


 最後にヘリアス様が入室し、私の隣の席に座った。

 その横顔に、先ほど見たような迷いは見受けられない。


 ヘリアス様が短い挨拶をして、すぐに会議は始まった。

 その内容は、パンドラ処理作戦のためにアルトリーゼ家以外の竜騎士の参加を要請することと、領民の避難方法についてだった。

 ヘリアス様が概要を説明し終えると、私の向かいに座っていた男性が挙手して立ち上がった。

 明るい茶髪の二十代くらいの男性だ。


(クレイシス伯爵家のご子息、ノイ様ね)


 ノイ様は出席者たちに一礼すると、ヘリアス様に対して非難めいた眼差しを向けた。


「密猟者の侵入という誤算があったとはいえ、我々はパンドラを処理する貴重な機会を失ってしまった。この代償はあまりにも大きい。アルトリーゼ家の失態では?」


 やはり、パンドラ捜索の件を責めてきた。

 それに対し、ヘリアス様が発言する前に、他の領主がすかさず反論した。

 

「待ちたまえ。失態とは言うが、そもそも群れの中にパンドラが隠されていることを突き止めたのはアルトリーゼ家であり、彼らはすぐに捜索を行っている。その短時間で密猟者の対策をするなど無理な話だ。それに、率先して危険な任務を行ったアルトリーゼ家に対して、あまりに無礼ではないか」

「あらかじめ防げた事故では?」

「何だと?」


 ノイ様は小馬鹿にするように鼻で笑った。


「王竜の宝石はとても貴重なものです。密猟者がいることは想定できたはず」


 ヘリアス様がふっと小さく笑った。

 

「つまり、我らアルトリーゼ家が、パンドラの有無に関係なく、四六時中王竜の群れを見張っておけば済む話だったと?」

「その通りです。王竜は大事な竜ですから。それに、パンドラの攻撃を受けなかった時点で、ある程度予測できたはずですよ。アウデンティアに向かう何かにパンドラが積まれているかもしれない、とね」


 だからといって、何の情報もなしに王竜の群れにパンドラが隠されているだなんて、誰が予測できるだろうか。

 顔を見合わせる領主たちに構わず、ノイ様はさらにつづけた。


「パンドラを処理するためには、領主たちの協力が必須です。ですが、その指揮官がヘリアス様であることに、納得できない者も多いのではありませんか?」


 あまりにも礼儀を欠いた発言に、内心で怒りがこみ上げる。

 一方、ヘリアス様は動じた様子もなく、ノイ様の真意を見定めるように、静かに耳を傾けていた。


「では、()()()殿()。あなたの考えを聞かせてもらおう」

「もちろんです」


 ノイ様は余裕たっぷりに微笑み、こちらに視線を向けた。


「アルトリーゼ家は王竜の子供を保護したそうですね」

「はい」

「まさかとは思うが」


 ヘリアス様が釘を刺すように言った。


「フィルナに、王竜の子供に乗ってパンドラを処理しろなどと言うつもりではないだろうな」

「まさか! 王竜の背中に乗れば宝石にされてしまいますよ。私はただ、フィルナ様なら王竜の子供の鳴き声を参考に、専用の竜笛を作れるはずだと思っただけです。その竜笛を使って王竜を従わせるのです」


 彼は竜笛の力を過信しすぎている。または、私を試しているのかもしれない。

 

「私も竜笛を作ろうと考えていますが、王竜は竜笛が効きにくい竜です。鳴き声だけでなく、我々が把握できていない意思疎通の方法があるのかもしれません」

「ほう? 例えば?」

「憶測になりますが、群れで暮らすオオカミのように、表情や動き、においから読み取っている可能性があります。私が作る竜笛が、王竜を従わせるほどの効力を持つとは思えません」

「なぜ最初から不可能だと諦めてしまわれるのでしょうか」

「諦めているわけでは――」


 ノイ様は厳しい口調で私の言葉をさえぎった。


「あなたは竜聖医であり、ウタヒメでもあります。人と竜を救うのがあなたの使命のはず。それを放棄するなど、理解しかねます」

「ノイ・クレイシス」


 ヘリアス様が鋭く名を呼んだ。会議室内に緊張が走った。


「名案が飛び出すかと期待したが、先ほどからあなたはアルトリーゼ家を非難するばかりだ。鳴きわめくだけなら雛でもできるぞ」


 ノイ様はむっとした顔でヘリアス様をにらんだ。


「追い詰められれば、そのように相手を侮辱するのですか。竜騎士として恥ずべき発言だ」

「もう黙れ、ノイ」


 今まで沈黙していたノイ様のお父様、リロイ様が鋭く制した。

 ノイ様は一言謝罪し、渋々と着席した。

 リロイ様は長い髪を後ろでひとつにまとめた、五十代くらいの男性だ。

 彼は首に巻いたクラヴァットに触れて、ピンに付いた丸い赤い宝石をなでている。


(縦に細長く黒い筋が入った宝石?)


 なぜか既視感を覚えるその宝石を見つめながら、私はクレイシス家が何を生業にしている家なのかを思い出した。

 クレイシス家は、イーリス教公認の竜の剥製を作る家だ。

 彼がなでているのは、ガラス製の竜の目……大きさからして子竜のものだと気づき、その悪趣味さに嫌悪感を抱いた。


「フィルナ様」


 リロイ様の黒い瞳が私を捉えた。


「その王竜の群れは、いつ頃アウデンティアを通過するとお考えですか?」

「早ければ二日後と考えています。経路を決めかねているようですので、最長で五日後でしょうか」

「最短で二日ですか……。教会は王竜を傷つけるなと仰せです。どのみち、誰かがパンドラを処理しなければなりません。たとえ、その者が命を落とすようなことになっても、ね」


 彼の発言で、会議室はしんと静まり返った。


「当然、ヘリアス卿はそのことをご存じのはず。しかし、警戒した王竜に近づけるほど優秀で、なおかつ死んでも問題のない人間などおりませんでしょう」

「アルトリーゼ家の竜騎士に、ひとりいる」


 ヘリアス様の発言で、会議室に動揺が広がった。


「おや……死んでも問題ない竜騎士が?」


 リロイ様は興奮したように目を異様に輝かせた。

 ヘリアス様は、先ほどラインさんから受け取った封書を見せた。


「これは、その竜騎士からの志願書だ。パンドラを憎む優秀な竜騎士であり、現在は死刑囚の男」


 まさかと、私はヘリアス様の横顔を見つめた。

 この表情をする竜騎士たちを、昨日から何人も見てきた。

 彼もまた、覚悟の光を宿した目をしていた。


「『オリアスの猟犬』と呼ばれた男。ジン・グレンカイトだ」


次回更新は5/10です。

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― 新着の感想 ―
ノイを何らかの処分をしなければ正直おかしいですね。 流石に上位貴族に言って良い限度超えていると思う。身分制度を守る意味でも本人の命を守る意味でも何らかの処罰をノイに対してする必要あると思う。 上位…
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