追懐メルキオール4
最初に王竜を見つけた人は、たくさんの船が海に浮かんでいると思っていたらしい。その船が突然、空に向かって飛び立った時の驚きはどれほどのものだったのだろう。
当時の衝撃を今に伝えるように、繁殖のために空を移動する王竜の群れを「回遊船団」と呼んでいる。
私はエアルに騎乗し、大勢の竜騎士たちとともに、王竜の調査に向かっていた。
王竜の群れの中に、パンドラが隠されている可能性があるからだ。
深い紺色の空が、澄んだ淡い青空へ移り変わっていく。夜明けが近い。
見上げると、巨大なクジラのような竜の群れが、雲海を悠然と泳いでいるのが見えた。
まさに、空を渡る船。
海と空を制する圧倒的な威容を前に、感嘆のため息が漏れた。
竜騎士たちも同じように、王竜の姿に見惚れているようだ。
非常事態だとわかっていても、これほど大規模な竜の群れを見れば、やっぱり感動してしまう。
しばらく彼らの動きを観察しているうちに、あることに気がついた。
私は並んで飛んでいるヘリアス様に視線を向けた。
「ヘリアス様」
「どうした」
ヘリアス様が口元を覆っていたマスクをずらした。
高度を上げるにつれて、風が肌を刺すように冷たくなる。
火の竜の鱗で作ったフードとマスク付きのコートは、この作戦に参加するすべての人間が装備していた。
私も彼と同じように、マスクをずらして言った。
「先ほどから、王竜たちが同じ場所を旋回しています。旧キントバージェ領で爆発があった影響で、移動経路を変えようとしているのかもしれません」
「つまり、アウデンティアを通過するかどうかは、今の段階ではわからないということか」
「はい。とはいえ、移動経路を大幅に変更すると、他の群れと接触する可能性がありますから、できれば避けたいはずです」
「そうか。どちらにしろ、まずはパンドラを見つけなければならないな」
だけど、パンドラがどのような形で隠されているのかわからない。
もし、王竜が飲みこんでいたら……。最悪の想像が脳裏に浮かんで、背筋が冷える。
(もしそうだとしても、諦めるわけにはいかない。何とか方法を考えないと!)
思考を切り替えて顔を上げると、一頭の王竜がこちらに近づいてきた。
私たちのことが気になって、様子を見にきたんだと思う。
エアルは王竜を警戒するように低く唸った。
威嚇しないで、とエアルの背中をなでた。
王竜の目は、私たちを見定めるように動いている。
私は警戒されないようにじっとしながら、さりげなく王竜の身体を観察した。
「すごいですね。身体が傷だらけです」
「長年戦いつづけてきた王竜か。強そうだな」
ヘリアス様の言葉に反応して、ドゥルキスが短く吼えた。
「張り合うな」
ヘリアス様は小さく笑って、ドゥルキスの首を軽く叩いた。
王竜はしばらく私たちと並んで飛んでいたけれど、大きな胸鰭を力強く動かして、群れの中へ戻っていった。
どうやら、敵ではないと判断されたみたいだ。
ヘリアス様はその王竜を見送ってから、背後の竜騎士たちにも聞こえるように声を張った。
「王竜は人間に対して友好的なため、竜に分類されてはいるが、敵と認識されれば攻撃してくる。彼らに竜笛は効かない。接触せず、慎重に行動しろ。絶対に王竜を傷つけるな」
ヘリアス様の指示を一言一句聞き逃すまいと、竜騎士たちは静かに耳を傾けている。
「後方から侵入する。先頭の集団に追いついたら、そのまま離脱。凍傷には注意しろ」
言い終わると同時に、ヘリアス様の背後から光が差した。
柔らかな光を浴びた王竜の群れが、心地よさそうに鳴き始めた。
「日の出だ。作戦開始」
ヘリアス様の指示笛が鳴り響き、竜騎士たちが王竜の群れの中へと散っていく。
私もヘリアス様につづいて高度を上げ、群れの中へと入った。
(息苦しい……。あまり長居はできないわね)
私は王竜を刺激しないように距離を保ちながら、身体に宝石をつけた王竜を探した。
身体の外側にパンドラがあるのなら、間違いなく宝石の中に埋まっているはずだから。
身体に宝石をつけた王竜はそれほど多くなかったけれど、黄色や紫色をした宝石をつけた王竜を見かけた。
透き通っているとはいえ、距離を保ちながら中身を確認するのは、小型望遠鏡を持っていたとしても難しい。
それに、高度の問題もあった。竜は平気そうだけれど、人間の方が先に限界を迎えそうだ。
そうやって地道にパンドラを探していると、前方に竜の姿があることに気づいた。
(竜騎士たちかしら?)
そう思って目を凝らす。
土属性の竜が三頭いて、それぞれ人が乗っているのが見えた。
彼らは縦一列に並び、王竜の身体に近づいていく。
(何をしてるの? 近づきすぎだわ)
指示笛で注意しようとして、はっとした。
少し近づいてわかったけれど、アルトリーゼ家の竜でも竜騎士でもない。
(まさか、密猟者!?)
その時、最後尾にいた人物が王竜に近づいて、剣を抜いたのが見えた。
「剣を抜かないで!」
とっさに叫んだけれど、一歩遅かった。
きらりと光を反射する刃を見た王竜が、耳をつんざくような咆哮を放ち、澄んだ早朝の空をかき乱した。
警告音にも似たそれは、人間の恐怖を強制的に刺激する。
全身の震えが止まらない。
この瞬間、私たちは彼らに、「群れを乱す敵」と認識されてしまった。
王竜たちは呼応するように咆哮し、その巨体で押し潰すかのように、次々と私とエアルに迫ってきた。
次回更新は5/2です。




