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【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

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追懐メルキオール2


「これは、何が起きている?」


 ヘリアス様は結晶に取りこまれている男性を見ながら、戸惑いの声を漏らした。

 男性は王竜の背中で仰向けになる形で、結晶に埋まっていた。

 私は結晶の状態を確認しながら言った。


「どうやら、王竜が生成する宝石に取りこまれたようですね」

「そうか、これが噂の王竜の宝石か」

「はい。貝が生成する真珠のようなもので、体内に侵入した異物や、皮膚に張り付く寄生生物を敵と認識して溶かし、宝石を生成する成分を分泌して包みこみます」

「ひぇ……」

 

 怯えたように小さく悲鳴を上げたシーラの隣で、ラインさんは納得したようにうなずいた。


「その貴重な宝石を狙う密猟者もいますよねぇ」

「つ、つまり、この人は密猟者なんですか? 宝石を狙って、自分が宝石になるなんて……っ!」

「これ、ものすごく高価ですよ」

「い、嫌ですよ! 人間が入ってる宝石なんて!」


 ヘリアス様は何かに気づいたように、その宝石に近づいた。


「この男に触れても問題ないか?」

「その宝石そのものに触れなければ、大丈夫だと思います」


 ヘリアス様は男性の背中を上から覗きこんだ。

 男性と王竜の間には分厚い宝石があるため、覗きこめば背中は見える。


「やはりな」

「何か見つかりましたか?」

「背中を見てくれ」


 宝石は透き通っているため、宝石に埋まっている身体の状態は確認できた。

 男性の背中を見ると、左肩から右の脇腹にかけて大きな傷があり、裂けた服から肌が露出していた。

 そして、左肩あたりに見覚えのある紋章が刻まれているのが見えた。

 少し皮膚が溶けてにじんでいるけれど、間違いない……。

 それは、セイレニア教の紋章だった。


 ◇◇◇


 エレスチャルの治療で使用した大きな浴槽に、今は王竜の子供がぷかぷかと浮かんでいた。

 水はルクスリア帝国の海水に合わせ、腹部の傷を治療するために薄めた薬も入れている。


 アルトリーゼ家に連れてこられた王竜は、とても大人しかった。

 声の力が効いているのか、それとも暴れる必要はないと理解しているのか、本当のところはわからないけれど。


(普段は海で泳いでいるのに、繁殖のために空を飛ぶだなんて……まさに王竜という名に相応しい竜かも)


 現在確認できている竜の中で、水中でも空でも戦える竜は王竜のみと言われている。

 胸鰭が翼の役割を持つなんて、本当に不思議な竜だ。

 その王竜は、ニシンやタラをたくさん食べたあとも、水面から顔を出して、じっとこちらを見つめている。


「どうしたの?」

 

 優しく声をかけながら、驚かせないようにゆっくり近づく。野生の竜だから、距離は慎重に取る。

 すると、王竜が口を開いて「ピー!」と笛のような鳴き声を上げた。

 王竜は歌う竜とも言われているため、その声は楽器のように綺麗だ。


 大きくて丸い瞳が期待するようにキラキラと輝いていて、胸の奥がきゅんと締めつけられた。

 敵意は感じない。むしろ、親に甘えるような眼差しをしている。


(構ってほしいのかしら?)

 

 敵意がなければ人間を宝石にすることはないとはいえ、念のため手袋をはめてから、そっと王竜の頭に手を伸ばした。

 王竜は私の手をじっと見つめてから、すりっと大きな頭をすり寄せてきた。

 まるで、「ありがとう」と言っているように。

 私の勘違いかもしれない。それでも、人間に歩み寄ってくれたその優しさに罪悪感を覚えて、ぐっと喉が詰まるような感じがした。


「ごめんね。人間の争いに巻きこんでしまって……」


 思わず謝罪を口にしていた。

 パンドラが爆発しなければ、この子は怪我をして群れからはぐれることもなかったのに。


「奥様、王竜と仲良くなったんですね」


 シーラの声にはっとして、後ろを振り返る。

 少し離れた場所に、分厚い本を腕に抱いて微笑むシーラがいた。


「頼まれていた本を見つけましたよ」

「ありがとう、シーラ! 助かったわ」


 私は王竜の頭をなでてから、シーラに歩み寄った。

 早速受け取った本を開いて、該当のページを探す。


「その本は、王竜の専門書なんですよね?」

「ええ。王竜のことはほとんど解明されていないけれど、この本には王竜の群れの移動経路が詳細に記されているの」


 王竜の群れは複数あり、毎年同じ移動経路を使うと言われている。


「えっと、キントバージェ領上空を通過する群れの経路は……」


 地図が載ったページを開いて、群れの移動経路を指でなぞった。

 どうやら、この王竜がいた群れは、ルクスリア帝国の南側に生息しているようだ。そこから泳いで南西に向かい、インヴィディア王国の海で魚を食べて、そのあと空を飛んで北上する。


「ああ、よかった! この子のいた群れは、アウデンティア上空を通過するみたい」

「じゃあ、今回保護した王竜は、毎年ここにやってくる王竜の群れの子供なんですね! すごい偶然です!」

「そうね。アウデンティア上空を通過する群れは、ふたつあるみたいよ。先に通過する群れは、アケーディア王国を経由してやってくるみたい」

「ふたつもあったんですね! 気づきませんでした!」

「この子も竜だから、傷の回復は早いだろうし、群れが通過するのに合わせて帰してあげないと。このことをヘリアス様に報告してくるわね」

「はい!」


 ヘリアス様の執務室に向かう途中、ふと頭に浮かんだのは、あのセイレニア教の男性のことだった。

 彼はなぜ、王竜の背中で宝石の一部となっていたのだろう……。


次回更新は4/27です。

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