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【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

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祝福のエレスチャル25

 木箱を破壊して姿を現したのは、大型ラドロンだった。

 長い尾で木を薙ぎ倒しながら、大きな目玉をギョロギョロと動かして獲物を探している。

 その背中には、エレスチャルを襲ったあの鋭いトゲが無数に伸びていた。


(まずい、この騒ぎで人が集まってくる!)


 隔離竜舎は病気の竜のための施設なので、人通りも少なく、周囲に民家はない。

 けれど、騒ぎを聞きつけて人が集まれば、さらに被害が広がってしまう。


「あははは!」


 シセラ様が楽しそうに肩を揺らして笑った。


「さあ、私の可愛いラドロン。この女をできるだけ痛めつけて、苦しませて殺しなさい!」


 ラドロンはそれに応えるように咆哮を上げ、ドシンドシンと大地を踏み鳴らしながらこちらへ迫ってきた。


「奥様、逃げてください!」


 フェリシアが私を庇うように前に出て、両腕を広げた。

 私はその震える肩に手を置いて、「大丈夫」と声をかけた。フェリシアは目を丸くする。


「で、でも、奥様」

「この時のために用意していたものがあるの」


 どのみち、私たちの足ではラドロンから逃げられない。ここでラドロンを止めるしかない。

 

 私は、先ほど鞄の中から取り出していた竜笛を咥え、ふっと息を吹きこんだ。

 それを見たシセラ様が、こちらを指差して小馬鹿にするように笑った。


「あはは、何をやっているのよ! もしかしてエアルを呼んでいるの? 届くはずないのに! あ、それとも私の真似かしら」


 彼女は勝ち誇った顔をして、その手の竜笛を見せつけるように揺らした。


「本当に馬鹿ですね、あなた。ただの竜笛でこのラドロンに命令できるはずないでしょう? とうとう頭がおかしくなったのかしら!」

「奥様!」


 近づいてくるラドロンを見て、フェリシアが悲鳴のような声を上げる。


(止まって)


 そう祈りながら、吹きつづけた。

 すると、目前に迫ったラドロンが、突然足を止めた。


「は?」


 シセラ様が不快そうに頬を引きつらせる。


「ちょっと、どうして止まるのよ! 早く殺しなさい!」


 シセラ様がそう命令しても、ラドロンはぴくりとも動かない。

 どうやら、上手くいったみたいだ。私はほっと息をつく。


「奥様、その竜笛は一体?」


 フェリシアがラドロンを警戒しながら、声をうわずらせて訊ねる。


「これは大型ラドロンの声を再現した竜笛です」

「ラドロンの声を、再現!?」

「天青の神殿で聞いたラドロンの声をもとに再現したのですが、上手く再現できているようで安心しました。セイレニア教も同じ原理でラドロンを操っているのでしょう」

「さ、さすが奥様です。一度聞いただけのラドロンの声を再現してしまうなんて、誰にでもできることではありませんよ」


 フェリシアが興奮したように言った。


 以前から、ラドロンの声を再現した竜笛があれば、セイレニア教に対抗できるのではないかと考え、その試作品を作っていた。

 しばらく使う機会がなくて、ずっと鞄の隅で眠っていたのだけれど、役に立ってよかった。


「う、うそよ! そんなこと、普通の人間ができるはずないでしょう! できるはずないのよぉ!」


 シセラ様は髪を振り乱し、地団駄を踏んだ。


「ウタヒメだからなの? ずるい、ずるい、ずるい! そんなのまるで、あなたが特別な人間みたいじゃない! 私の方が特別なのに、許せない!」


 彼女は頬を膨らませ、思いきり竜笛を吹いた。怒りに任せて、何度も。


「だめです、シセラ様! そんなに何度も吹いたら――」


 今までじっとしていたラドロンの目が動き、シセラ様を捉えた。

 ゆっくりとした足取りで、シセラ様のもとへ向かっていく。


「ひっ!? どうしてこっちに来るのよ! あっちに行って!」


 シセラ様が竜笛を吹いて命令しても、ラドロンの足は止まらなかった。


(何度も竜笛を吹いたから、混乱しているんだわ!)


 竜と違って魔物は本能的に人を襲う。

 命令が錯綜すれば、命令者であっても本能を優先して襲いかかってしまうのだろう。


「いけない、シセラ様! 竜笛を吹くのをやめて!」


 私の声は届かないのか、シセラ様は必死に竜笛を吹いている。

 この状態で私が竜笛を吹いても、ラドロンは止まらないだろう。

 私は騎兵銃を構えながら、一瞬考える。


(この銃でラドロンを仕留めることはできない。それに、ラドロンを撃ってしまえば、竜笛を持っていても私を攻撃者だと認識して、二度と従わないはず)


 そうなれば、エアルがいない状態で戦うことになる。ならばやはり……。


(私の竜笛で従わせる)


 私は銃口をシセラ様の方へ向け、発砲した。

 その弾丸は、いまだに竜笛を吹きつづけるシセラ様の顔の横を掠め、髪が数本舞い散った。


 シセラ様はびくりと肩をすくめ、口から竜笛を離した。


「次は当てます! 竜笛を捨てなさい!」

「で、でも、そんなことしたら……」

「死にたいんですか!」

「ひゃ、ひゃい!」


 シセラ様は慌てて竜笛を投げ捨てた。

 それを見て、私は竜笛をゆっくりと吹いた。


 ラドロンはそこから二、三歩ほど歩いてから、ぴたりと静止した。

 何とか間に合った……。 


 シセラ様は腰が抜けたのか、その場にへたりこんでぽろぽろと涙をこぼした。


「どうして、こうなるのよ。お兄様、早く助けにきてよ。それが竜騎士の、王の剣としての役目でしょう! 私はあなたの未来の花嫁で、最も価値のある存在なのに!」

「それはどうでしょうか」

「何ですって?」


 シセラ様は濡れた目で、じろりと私をにらんだ。

 私はそんな彼女を見下ろし、毅然とした態度で言った。

 

「ヘリアス様は守るべき民に剣を向けることはありませんが、民の命を脅かす者には容赦しません。セイレニア教が生み出した力を手にして、私を殺そうとしたあなたは、彼が守るべき民ではない。敵です」

「あ、うう……違う、私……」


 反論もできないのか、シセラ様は深くうつむいて、がたがたと身体を震わせた。

 私は小さく息を吐いてから、静かに命令を待っているラドロンを見上げた。


(まずはこのラドロンを何とかしないと。早くヘリアス様に知らせて、それから……)


 そうだ、シセラ様の竜笛を回収しよう。そう思った瞬間――


「危ない、奥様!」


 フェリシアの叫び声が響き、私はドンッと強く突き飛ばされ、地面の上を転がった。


「な、何が……」


 反射的に閉じていた目を開けると、目の前の地面に、見覚えのあるトゲが突き刺さっているのが見えた。


「このトゲは……フェリシア!」


 慌てて上体を起こし、背後を振り返る。

 そこには、背中に二本のトゲが刺さったフェリシアが、うつ伏せになって倒れていた。

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― 新着の感想 ―
これでやっとシセラ嬢がおとなしくなると思いきや、フェリシアさんが! 笛を再現するとか絶対音感の持ち主なのかな、とほのぼのしてたらまさかの人的被害にちょっと動揺が隠せません 竜だったらきっとなんとかな…
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