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【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

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祝福のエレスチャル23

 ルネ様は深く息を吐き出し、顔を上げる。


「……合わせる顔がありません。もう十年も会っていない。あの子が一番つらかったその時に、そばにいてやれなかったというのに」

「それでも、エレスチャルはずっとあなたを待っていますよ。必ず会いに来てくれると信じているはずです」


 ルネ様は息を飲み、痛みをこらえるように強く目を閉じる。

 本当は今すぐに駆け寄りたいはずなのに、十年の歳月と罪悪感が足を重くさせている。


 私は眠るエレスチャルと、苦しげな表情を浮かべるルネ様を見て、そっと竜笛を吹いた。

 すると、少し遅れて、エレスチャルがゆっくり顔を上げた。


 ルネ様はびくりと身体を震わせ、食い入るようにエレスチャルの動きを見つめていた。

 

 エレスチャルはヒクヒクと鼻先を動かして、こちらを見た。その瞬間――


「キャア! キャア!」


 エレスチャルは今までにないほど、大きな声で鳴き始めた。

 動かない下半身の代わりに翼を広げて、前足で地面をかいて必死にこちらに向かってくる。


(え……左の後ろ足が……!)


 千切れ舞う草の向こうで、エレスチャルの左の後ろ足がわずかに地面を蹴るのが見えた。


(動いてる! 少しずつ、修復されてる!)


 ルネ様に会いたい一心で、エレスチャルは全力を振り絞って、地面をえぐりながら前へと進む。

 ルネ様は目に涙を浮かべて、開いた口から短く浅い呼吸を繰り返している。

 その時、エレスチャルの前足が滑り、大きく体勢を崩して転倒してしまった。


「エレスチャル!」


 私とルネ様の叫び声が重なる。

 ルネ様は私よりも先に駆け出し、何度もつまづきながら、息を切らしてエレスチャルに迫った。

 

「エレスチャル!」


 ルネ様がもう一度叫ぶと、エレスチャルはぱっと顔を上げ、再び上体を起こした。

 ルネ様が駆け寄りながら両腕を広げると、エレスチャルはその腕の中に飛びこむように、鼻先をぐいっと押しつけた。

 ほとんど頭突きの勢いだったため、ルネ様は頭を抱きしめながら尻餅をついた。


 エレスチャルはすっかり興奮していて、ルネ様の涙に濡れた顔を夢中で舐めている。下半身が動いていれば、きっと尻尾も振り乱していただろう。

 悲しげな顔をしていたルネ様は、その熱烈な再会の挨拶に、思わずといった様子で笑っていた。


「ああ、エレスチャル。会いたかったよ。十年間ずっと……お前のことを思い出さない日なんてなかった!」

「キュウ、キュウ……!」


 エレスチャルは本当に嬉しそうに目を細めて、甘えた声を上げている。

 そして、彼の膝の上に顎を乗せて、そっと目を閉じた。

 その頭を、ルネ様は優しい手つきで、慈しむように何度もなでた。額から立派な角をなでて、さらさらと流れる美しい毛に指を埋める。

  

「もっとたくさん、言いたいことがあったはずなのに……涙ばかりがあふれてしまうよ」

 

 ルネ様は小さく肩を揺らして笑い、泣いていた。

 エレスチャルが愛おしくて仕方がないと、その表情が物語っていた。


 エレスチャルは上目遣いにルネ様を見上げて、「キャア!」と明るく鳴いた。「会いたかったよ」と伝えるように。


「私もだよ。ひとりにしてすまなかった。寂しい思いをさせたね。フィルナ様に、大切にしてもらったんだね」


 ルネ様は涙で声を詰まらせながら、何度も何度も優しく声をかける。

 初対面の時に見せていた、すべてを諦めたかのような表情は、そこにはなかった。

 私にとっても待ち望んでいた光景に、目の奥が熱くなる。

 

 その後、ヘリアス様が城に戻られ、エレスチャルのいる竜舎を訪れた。

 そこに、捜索していたルネ様がいたため、とても驚かれていた。


「ちょうどいい、あなたに提案がある」


 そうヘリアス様が切り出した。

 ルネ様は緊張した面持ちで、つづく言葉を待っている。

 

「エレスチャルの所有権はアルトリーゼ家に移った。エレスチャルの脊髄が治療できれば、早ければ来年の竜品評会に出場させる」

「エレスチャルを竜品評会に……」

「ああ。だが、この十年間は貴族の家で観賞用として暮らしていたらしく、大勢の前に出られるような訓練は受けていない。そのため、竜調教師による訓練が必要だ」


 ヘリアス様はルネ様を真っ直ぐに見つめて言った。


「あなたは腕の良い竜調教師だと聞いた。あなたの知識と経験を信じて、臨時の竜調教師としてあなたを雇いたい。そして結果を出せたその時、正式にアルトリーゼ家専属として雇いたいと思っている」

「ヘリアス様……っ!」


 ルネ様はその申し出に感激したように、再び目に涙をあふれさせた。

 「結果を出せたその時」と、あえて条件を提示したのは、エレスチャルの家族だからという理由で専属にしたのではなく、彼の能力をきちんと評価したうえで専属としたのだと……そう、ルネ様に思ってほしいからだ。


 ルネ様はまるで忠誠を誓うように片膝をついて、祈るように両手を組んだ。


「ヘリアス様、フィルナ様。その申し出、喜んでお受けさせていただきます。私のすべてを懸けて、エレスチャルと向き合い、結果を出してみせます」


 強い覚悟と感情の強さの表れか、組んだ両手がわずかに上下に揺れている。

 エレスチャルの前足を合わせたお願いのポーズによく似ていて、胸の奥が温かくなった。

 

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― 新着の感想 ―
ルネさんとエレスチャルの再会シーンで涙ぐんでしまいました こんなに愛情深い人がなんだって虐待の濡れ衣着せられてしまったんだろう シセラ嬢に何かあったらエレスチャル悲しむかな、という懸念が無くなったの…
エレスチャル良かったね(涙)良かったねエレスチャル
読む度に竜を飼いたいと思ってしまいます。 落とし子を置く位のスペースしかないですが。
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