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いつもの日々に  作者: ルウ
副話 第三部隊
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208/209

天照らす

明日香が天に掌を向けると、能力の起動と共に劇的に周囲の風景が変化する。その変化にバスに乗った乗客は驚き、戦闘員共々騒めいていた。

それも仕方がない。何せ周囲の光と言う光が、天に向けた明日香の掌から直線で100m先に集まりだし球体になっていたのだ。その弊害なのだろうか、月明かりや外灯の光で明るい筈の周囲が段々暗くなっていく。

この状況は初めてなのか、バスに乗った戦闘員の隊長がバスの窓から不安そうに叫ぶ。


「霧島さん!!これは一体!?」

「日向の固有能力だ!!全員窓を締め、対ショック体勢ととれ!!」


光が集まる。それと同時に周囲の色が、明るさが、見えるもの全てが黒へと変わる。その光景と葵の指示に顔を引き攣らせた隊長は、慌てて窓を閉めてカーテンを引いた。

それを横目で見た後、明日香の方へと視線を移せば目が合った。それに応えるように葵は頷き、明日香はポケットから出したARグラス(眼鏡もしくはサングラスに仮想スクリーンやマルチモニターが映る)をかける。


「フトマニ、気象衛星『天照』とリンク。現在位置と着弾場所をガイド!!光子収束、予定まで30秒、光子にエネルギー付与・質量付与!!」


明日香の固有能力『天弓』は、光を操ると言う単純で操作の幅がある能力だ。どれくらい幅があるかと言えばまず光と言う物を知って欲しい。光とは『電磁場の波として空間を伝わる電磁波』であり、同時に『光子(フォトン)という粒子』としても振る舞うものだ。波としての性質と粒子としての性質を持つのが光という事。その光の軌道や光が持つエネルギーや周波数、そして光の粒子としての性質を操作し強く出来ると言う強力な能力である。

その強力な力は、明日香の掌の上100mで収束し待機している。


「地を穿て『天羽々矢(あめのははや)』!!罪人の住処に天の鉄槌を!!」


明日香の宣言と同時に、収束していた光が滝の様に零れ落ちた。それは巨大な光の柱となって先程まで居た研究所に降り注ぐ。質量とエネルギーを持った光子は、研究所を押しつぶしながら焼き切って行く。地の底から鳴り響く爆発音と共に一瞬で消え去る研究所、爆風と地響きが周りに広がるがある点でそれが抑えられる。


「思ったよりも威力があったな、以前よりの能力が強くなっているんじゃないか?成長したな」

「衝撃波を中和してもらって、ありがとうございます…それはそうと!!あれから何年たったと思うんですか、あの頃十代だった私も二十代になって仕事してるんですからねっ!!」

「もう子供じゃないって事を言いたいのか?ただ昔と比較して頑張ったなと思っているだけなのだが…」

「それですよ!!風文さんや紫門さんといい、なんでみんな私を子ども扱いするんですかねぇ!?」


爆風やそれに伴う地震の如き地響きは研究所から数十m離れた所で、切り取られたかのように止まっていた。そんな中で騒ぎだす明日香とそれを宥める葵、そんな二人を見ているバスの中の隊長は何をしているんだと訝しんだ。




小高い丘。そこから見下ろせば、離れた場所に石造りの巨大な壁に囲まれた城壁都市が見える。その周りは草原が広がり、遥か向こうには深い森が見える、

丘から見ていた誠一は、はあぁぁと深い…それは深い溜息を吐いた。理由はその城壁都市の入り口辺りで、誰かを探し回る女性達だ。


「…この役回りは、確か東哉の役じゃないのか?」


『この世界』に来てから10年。ずっと高深度の励起法を維持しているため、入り口辺りの人達の顔や表情どころか声まで聞こえる。『セイ!!どこなのセイ!!』と何か慌てたように探していた。

この世界に来てから…こう何と言うか…異世界転生・転移のテンプレと行った方が良い冒険の日々。


「桂二に借りたライトノベルみたいな話ってあるんだなー」


初日から一ヵ月はこの世界に馴染むまで何もなかったが、ある日、襲われている馬車を助けて陰謀を暴きそれから国を救って…等々と、まあ異世界物の定番のような体験をしていた。

やっていないのは知識チートぐらいじゃないかな?などと思いながら誠一は、腰に付けたコンパスを持つと蓋を開く。コンパスの様に見えるがこれは、誠一のいる場所を記憶しコンパスを介して別世界に転移させたり元の世界に引き戻したりすることが出来る。


「戦闘の経験や励起法の維持は覚えた…これ以上の成長をするには励起法を一度やめてから休まないと…少々疲れた」


励起法は身体を強化するだけではない、強靭な身体へと励起させると同時に回復力なども格段に強化されている為に、身体は疲れず老化もしない。とは言え精神的には疲れるものだ、この状態で修業しても成長はない。だから誠一は元の世界に戻る事にした。


「ちょうど元の世界と近づく時期…帰るか」


色々な事がタイミング的に丁度良かったので誠一は帰る事にしたのだ。…色々な人間関係に疲れたからではない…違うと言ったら違うのだ。

色々な思い出を振り切って、意を決した誠一はコンパスを腰に付けなおすと、もう一つの道具を取り出す。

それは小さな笛、ホイッスルより少し大きい10cm程の角笛。これは重金浄教授から持たされた次元に響き世界を越える神の笛。この笛をを吹くとコンパスと連動し本来の世界に引き戻される仕組みだ。


「さて…」


笛を吹く直前、そう遠くない場所で自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。ほんの少しだけ、心を乱されながら角笛を吹いた。


「思ったよりも、心が残るもんだ…」


角笛の音が響くと同時にコンパスが震え、周囲の光景がブルリと震えたと同時に誠一の周囲だけがガラリと変わる。

そこは地下施設『竜宮』の転移室、出発した時と何一つ変わらない場所。人の気配で横を見れば、これまた同じ顔…船津東哉が驚いた顔でこちらを見ていた。


「え?同じタイミングで笛を吹いたのか?偶然でも凄いな!!」

「違う。出発前の説明で聞いただろうが!違うタイミングでも世界間の移動は時間が意味しないから同じ時間に帰って来るって言ってただろう!?」

「そうだっけ?向こうの世界で8年頑張ってたから忘れてた」

「忘れてたってなぁ…俺だって、ふふっ…お前、相変わらずだなぁ…こっちじゃ10年経って、ククッ。変わんないな」

「うひひ、お前だって変わってねー、俺より2年長いのに。ふっふふ…あはははははっ!!」


戻ってみれば出発と同じ顔、細かな服飾とかやや草臥れた服など変わった場所はある。だが余り変わらない雰囲気に、何故か二人は思わず笑ってしまった。

暫く笑い合った後、二人は近況を離し始めた。


「えー。何だよ、そのライトノベルっぽいギャルゲー状態は!!羨ましいなぁ!!」

「羨ましいって…こればっかりはめぐり合わせだ。というかお前には言われたくないな。それより、お前の方はどうなんだよ」

「俺の方はまるっきり逆!!ハックアンドスラッシュで戦記物のファンタジーな上に男だらけのだよ!!しかっも、迷宮とかいう所に潜る時には一ヵ月とか潜るんだぜ…これがまたくせーの何の…女の人はもぐんないってさ…」

「いや流石に例外ってのはあるだろ…う」

「それは…確かに迷宮以外では意外といたよ?綺麗な銀糸の様な綺麗な髪で、儚げに笑うエルフの…」


東哉は何かを思い出す様に、だらしなくにやけた顔で明後日の方向で喋る。そこで誠一は気付いてしまう、今も話続ける東哉の後ろで…それはとても美しく目が笑っていない笑顔の斎がいたのだ。


「ほう、東哉。その話少し詳しく聞きたいのだが…?」

「えっ!!い、斎!?」


気付いていなかった東哉は後ろから声をかけられて、あまりの驚きで凄い顔で固まっている。迂闊な奴だと耳を引っ張られどこかに連れて行かれる東哉を見送っていると、ポンと誠一の肩にも手がかかる…両肩に。。


「うぇっ!?俺は倍…って天子さん、彩さん!?」

「なんで私の名前が後なのかな?」

「ふふっ、リードしている差なんじゃないかなー?」

「何その余裕!!」

「ちょ、二人とも喧嘩は!!」


振り向けば満面の笑みを浮かべる天子と彩、ちょっとした言い方で一種即発になりそうになっている。額を突き合わせて喧嘩になりそうな二人を止めようとしたが、グリンと誠一の方を見た。


「天子との決着はまだ後で。それよりも…ちょーっと、転移先の女性関係を聞きたいなぁ」

「そうそう、私とーっても気になるわー」

「ちょ、二人と落ち着いて」

「着替えていく事があるから個室でじっくり聞きましょう」

「うおっ、ちょっと、引き摺らないで…」


帰って来たばかりでこれかよと、誠一は苦笑いを浮かべながら引っ張られて行く。どこか懐かしさを感じながら。


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