秘匿研究所
少し早く書けたので投稿します。いつものこのペースで駆ければ良いのですが、仕事が忙しい上に持病があるので気長にお待ちください。
静岡県御殿場市 某所 桃山第9秘匿研究所
「はっはっはっ…クソが。俺を巻き込もうとしやがって…刺し違えるつもりだろうが残念だったな、最近設置された転移陣さまさまだ」
飯田と戦っていた最中で逃げた山崎は、第11秘匿研究所内に最近設置された転移陣を使い、直線距離にして60km程東にある研究所の奥にある転移陣に現れた。複数の魔方陣とストーンヘンジの様に建てられた柱によって構成された積層型立体魔方陣、その中央に出現する山崎の姿は所々焼け焦げ煤にまみれゼイゼイと息切れをしていた。
危機から脱しようやく落ち着いてきた時、山崎は周囲の異常に気付く。
「…おい!!なんで誰もいないんだ!?なんでこんなに静かなんだ!?」
周囲があまりにも静かすぎる、機械音や照明から聞こえる電磁音は聞こえるが、人の気配や音が感じられない。ここまで来れたと言うのであればこの設備が生きて誰かが動かしたという事だ、なのに誰もいない。その事実に不気味に思いながら、山崎は隣の管制室ガラス越しに見るも誰もいない。
誰かいないかと部屋から出て廊下に出ると、シンと静かな廊下が伸びているだけだ。
「誰か!!誰かいないか!!」
張り詰めた空気、明らかに雰囲気がおかしい。この空気は知っている…これは戦場の空気だ、こちらも侵入者に攻め込まれているのかと戦慄した。誰もいない研究所の廊下を慎重に歩く、廊下の角を能力で光を屈折させて簡易的に見ると…。
「…っ!!」
角を曲がった先は真っ赤に染まっていた。それは研究員やここの職員たちの亡骸から流れ出た血だ。周囲を気にしながら近づき調べると、死体の傷は一つバッサリと袈裟に斬られた刀傷。死体はこの研究所の警備員、顔を見ると何が起きたか解らないような表情で死んでいる。
「後ろから日本刀の様な鋭利なもので斬られたのか…心臓まで達する一撃、周囲を警戒している警備の人間を気付かれずに後ろからか…相当な手練れ」
敵地で相手に気付かせずに一撃で始末する、さらに気付いた事に戦慄を覚える。血が飛び散った後はあるが…斬った人間の痕跡がない。どんな達人が斬ったとしても、噴き出す血がかかり床や壁に痕跡が残る筈なのだ。それが一切ない、万遍なく血が飛び散っているのだ。
「まるで噴き出す前に瞬間移動しているようだ………まさかこの手口はセイクリッドソードか!?」
裏の世界に流れる噂、正体不明のブラックリスト『55トライアングル』。裏の世界で起きた事件、その断片的な情報から遊び半分で作った裏の世界における危険人物55人をいう。
その内で白銀のレインコートを羽織る殲滅者、幽鬼の様に姿を見せない処刑人。その色から天からの裁きと連想されるモノが多い為、セイクリッドソード(神聖なる剣)と呼ばれる。
しかしこれは少なくとも西洋を中心としており、日本では『雷光』と呼ばれていた。
「だとしたら…マズい」
セイクリッドソードには名だたる能力者が狩られている。『ポイズンミスト』『デビルハンド』『レイザーエッジ』と言う今の山崎でも対処できないであろう、凶悪な能力者が倒されている。
自分なら勝てるとまでは言えないが、明らかに格上だろう相手に少し疲労した状態で何とか出来るとは思わない。
「冗談じゃあない…俺の様な選ばれた人間は此処で死ぬわけにはいかないんだよ!!」
この状況に山崎は再び逃げに徹する、このままでは生き延びれないそう判断した結果だった。しかし、その判断は手遅れだった。励起法を最大で出口まで走り抜ける、所々で死体がありその間隔が段々短くなっていく。
自分と同じように緊急の脱出口へと逃げていたのだろう…その違和感に山崎は気付かない。
「…っ!!」
緊急用の出口として作られている物資搬入口、そこに続く荷捌き場が…おびただしい数の死体と血の海になっていた。
そこの中心に佇む…白銀のレインコートの背中、右手には抜身の太刀が握られていた。そのレインコートを見た瞬間、山崎は総毛立つ。
明らかに勝てる相手ではないと、理屈ではなく感覚だけで解った。あんなのに戦いを挑むくらいなら連携が取れた能力者10人と戦った方がましだ、そう思わせる程の圧迫感が周囲を包んでいた。
だから山崎は再び踵を返す、本来の出入り口である正門から出る為に。逃亡を確実にする為に、励起法を全開まで引き上げ最高出力で白銀のレインコートへ打ち込み撤退する。その予定だったが…希望は叶わない。
直径10cmの熱線を合計十本、当たれば一瞬にして焼き切られる超高温のレーザー。それが放たれる直前、白銀のレインコートが振り向いた。
「…っ、何だ、それは!?」
その瞬間だ。放たれた熱線がすべて停止したように、白銀のレインコートの周囲で光の弾となり浮かび上がっている。思った以上の状況に一瞬だけ呆けてしまうが、逃げるタイミングを外したと考えた山崎は奥の手を出す事に決める。
懐に忍ばせていた拳銃を取り出すと、一瞬で銃身をスライドし弾倉に弾を送り引き金を引く。
それ自体は使い慣れた拳銃だが、弾が特別製。対能力者弾『鎧通し』、能力者の持つ神域を切り裂き励起法で強化された身体を突破できる特殊弾頭だ。
この弾を喰えば、いくら強力な能力者と言えでも斃れる筈だ。最悪でも足止めになる…そう思って引き金を引く直前、拳銃を持った手首から先が無くなった。
「…がっ、ぎゃあぁぁ!!俺の、俺の手が!!」
山崎が銃を構えるまでの一瞬、その一瞬で白銀のレインコートの男・霧島葵は山崎の斜め前に瞬間移動のごとく現れていた。山崎は自分の手が落ちるまでそれに気付かなかった、神域の間合いに居たにも変わらずにだ。
そして無くなった手をもう片方の手で押さえ、蹲り落ちた自分の手を探すそんな致命的な隙を山崎は見せてしまった。
遮られる光、かかる影。
見上げれば…
「あっ…」
眉月の如き、白刃が煌めき振り下ろされる。迫る白刃を見ながら山崎は、気付いてしまった。
『ああ。格上の俺に挑んできた、あの爺さんより弱かった…』
桃山第9秘匿研究所前
そこには数十人の人間がいた。悲壮と疲れた表情の人物たちがタオルケットを身に纏い一か所に蹲り、十数人の武装し顔を隠した戦闘員がその周囲で警戒している。
その中で白いワイシャツにスラックスと言うシンプルな装いをした女性が、秘匿研究所の入り口をみて神妙な面持ちで立っていた。年齢は20代半ばくらいで長い黒髪をポニーテールにして、やや垂れた目を眇めて研究所を見ていた。
暫くその状態が続くが、その状況が終わるのは研究所の扉が開いてからだった。
中から現れるのは白銀のレインコート、その姿を見て女性はホッと息を抜いて笑う。
「葵さん!!」
「明日香か…、状況は?」
「私達の方は最後の一手を残して終了しています。そちらはどうですか?」
「全滅させた…、中は一人も残ってない。研究所を守る儀式結界もすべて斬った、オーダー通りだ。見てたから解るだろう?」
そこまで言うと女性・日向明日香は、やっぱり分かっちゃいますかと苦笑い。
日向明日香、第三部隊の外部協力員であり導士系能力者最強と言われる女性だ。彼女の固有能力『天弓』は光を操る能力、光を操る能力者では最上位と言われている…ぶっちゃけ山崎の能力の上位互換である。
そしてその能力を使い、明日香は研究所の内部を映像だけ網膜に送って見ていたのだ。
「…葵さん、最期のあの男は何であんな風に?」
「うん?あれは、飯田の爺さんの仕事を完遂しただけだ」
「飯田さんの?」
「そうだ、第三部隊では爺さん達にお世話になっている人は多々ある。私もその一人だという事だ。あの爺さんとは約束していてな、何かあった時は後を頼むと」
「そんな事があったんですね…」
しんみりしながら明日香は目を閉じ右手を胸に当てて黙祷する。それを見た葵と戦闘服の一団も同じ様に胸に手を当てて黙祷する。
「惜しい人を亡くした…しかし、悲しむのは後だ」
「そうですよね…あの人たちも何とかしないといけませんし」
「何人だ?」
「実験台にされていた人たちは30人、実験台うち生きてたのはあそこの10人だけよ…思ったより多かった事に喜べばいいのか…あれだけしか助けられなかった事に悲しめばいいのか…」
第三部隊の戦闘員に守られていたのは、この秘匿研究所に囚われ実験台となっていた人々だ。明日香は風文に依頼されてここに来ていた、その一つがここの研究所に囚われている人を介抱しデータを吸い上げる事だ。
葵が侵入して、暫く経った後に明日香は戦闘員を連れて突入する。先に入った葵のお陰で戦闘は無かったが、実験台になった人達がいる区画に入った時に余りの凄惨さに戦闘員達は怒りに燃え…明日香は昔の自分を思い出し助けられなかった事に唇を噛んだ。
「…あまり思いつめない事だ。我々は神の系譜と言われる能力者だが、出来る事と出来ない事がある。タイミングが合わなければ出来ない事だってある…だから…今出来る事をするしかないんだ」
「…ふふっ、それ励ましてるんですか?不器用ですね」
「あまり言ってくれるな…天子にも言われているんだ」
「そりゃそうですよ…でも、そうですね。悲しむ前に、今は出来る事をするしかない、ですね」
その時だった、話す二人の後ろに大型のバスが入ってきた。
「さて、もう一つの依頼を完遂しますか!!葵さんやりますよ」
「ああ。総員バスに乗れ、急いで撤退する。遅れるなよ、さもないと巻き込まれて消滅するぞ」
「そこまで無差別じゃありませんよ!!」
「暴走した君を止めたのは私なんだがな…」
「その節はお世話になりました~しかし、それはそれ!!これはこれです!!」
そこまで言うと、明日香は掌を空に向けた。




