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いつもの日々に  作者: ルウ
副話 第三部隊
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206/209

禁じ手

炎の海に崩れ落ちる飯田、左手と右足がなくなったが断面からは血の代わりにサラサラと緋色に輝く砂が流れ落ちる。

片手片足でもと、右手で勢いを付けて立ち上がろうとする。


「おせーよ」

「がぶっ」


腹を蹴られ吹き飛ぶ、壁に背をぶつけそのまま床へと倒れた。


「所詮は識者、導士には勝てん。死にかけの頭で必死に策を講じたんだろうが近接戦も対処済み…無駄だったな」


ブワリと炎が分れ、山崎が嗤いながら歩いてくる。さながら炎を従えた王の様に。

その姿を飯田は口から砂交じりの血を吐きながら見上げる。


「さて、実力差も解っただろう?大人しく、灰になるといい」


そう言って山崎は手を飯田に向けた、その掌には赤を通り越した白い光が飯田を焼き尽くさんとエネルギーをはらんでいる。

しかし、山崎は倒れた飯田が何かを呟いているのを気付いた。何だと耳を澄ませば燃える炎の中から聞こえる…マントラ(真言)。それを聞いて山崎は顔を引き攣らせて踵を返し、飯田の事を無視して走り去る。


「馬鹿な、破壊のマントラ…各地方に伝わる禁じ手の一つ…自爆してこの地を更地にするつもりか!!」


『オーム・ナマ・シヴァーヤ』そう聞こえた山崎は急いでこの地から逃げる。本来ならばそれはシヴァ神に帰依する為のマントラだが、儀式として使うと身体を動かさない状態であれば励起法の深度が跳ね上がる。


「チッ、たしか第六研究所への直通転移門があった筈だ…」


視線も向けずに去る背中を見ながら、飯田はマントラを唱え続ける。

励起法、それは乗数強化と言う強力な身体強化法だ。解りやすく説明すると、身体が内包するエネルギーを数値にしてそれを指数関数的に上昇させる技能だ。

身体の耐久値・運動能力・神経インパルス・思考速度…etc.etc、自分の身体に関係するすべてが強化される。だだ、この強化には上限がある、それが理論値で深度8。

この理論値はエネルギーの器(身体)が励起法で強化され、それと同時に生じるエネルギーを最大限に使える状態だ。器(身体)に対してエネルギーが下回れば励起法の深度は下がり、上回るとエネルギーが器を壊しエネルギーが漏れ出る。

その結果が…。


「オン・ハンドメイ・シンダ・マニ・ジンバラ・ウン…オン・サンマヤ・サトバン…ノウボウ・アキャシャ・キャラバヤ・オン・アリキャ・マリ・ボリ・ソワカ…オン・マカラギャ・バゾロウシュニシャ・バザラ・サトバ・ジャク・ウン・バン・コク…オン・アビラウンケン バザラ・ダトバン…」


飯田が励起法と共に身体のエネルギーが漏れ出始め、結晶化した身体が反応して光り輝き始めている。それに呼応するように、炎の挙動が弾けるように燃え、部屋が段々光が満ちていく。

以前、サイファ学園都市で絶対やってはいけないと言われた励起法の使い方。それを学んでから、もしそう言う事態になった時に調べていたものだ。その後に大隊長に見つかって、それは以前からある『相手を巻き込む自爆』用の儀式の一つだから絶対使うなと言われていた禁じ手。


「…ふふふ、複数の真言を使った自爆用の儀式だ…ざまぁ、みろ。娘の仇だ…少しでも…思い知れ」


励起法のエネルギーを身体から溢れさせ、空間エネルギーを飽和させ相転移させる儀式『始りの真言』。戦闘時に漏れたエネルギー、炎による燃焼エネルギー、そして励起法からのエネルギーが空間に溢れ、爆発しそうになっている。

これで、おしまい。そう飯田が思って目を閉じようとした時だった。


「好き勝手して…これが年寄りの冷や水って言ったっけな?」


聞こえた声に目を見開くと、空間からぬるりと出てきた直剣が、結晶化で光り輝いていた飯田の身体を腹で割く。と同時に、辛うじて残っていた服の首根っこを空間から生えた腕が虚空に飯田の上半身を引きこみ消える。

そこに残ったのは飯田の下半身。上半身が消えた次の瞬間、制御をはずれたせいか一気に強く光り輝き…周囲をすべて白に変えて…。




「伏せろ!!爆風防護姿勢をとれ!!」


高田達が戦っていた場所から更に2km程離れた場所で、何かを感じたのか香取が叫ぶ。それに全員反応して、土の上にうつ伏せになり耳を塞ぎそして口を開ける。

次の瞬間、音が消え強力な衝撃波が全員を襲った。爆風と共に色々な物が飛んできて頭の上を掠め、土や泥交じりの砂が降り注ぐ。モウモウと漂う土煙が周囲を包んでいた。


「おーい、皆大丈夫か?」

「大丈夫です、恵美は大丈夫?」

「ぺっぺっ、口の中砂だらけだよ…、やり過ぎだよ、一矢報いるどころか爆弾でふき飛ばすとか限度があるんだよ!!」

「落ち着け婆さん」


土煙の中でギャイギャイと文句を付ける石田、それを宥めるアレクと香取。風が吹き、土煙は晴れていくと、その場の全員が唖然とする。なにせ岩山があった場所がポッカリと抉られたように無くなって、その周囲は爆風で吹き飛んで原型を留めていないからだ。


「これが禁じ手、なんて威力だ」

「既存の能力者でもここまでの破壊は出来んぞ…軍事利用されたら世界が無茶苦茶になる」

「馬鹿言ってんじゃないよ、だから禁じ手だってんだ。ほいほい使えるようなもんじゃないんだ…だから、今日の事は忘れな!!いいねっ!?」


ちょっと変な方向の話になりそうだったが、石田が一喝しながら『これだから男は』とブツブツ言いつつ視線をある方向に向ける。

そこには上半身だけになった飯田と彼を抱える高田、その傍らに立つ疾薙紫門がいた。


「あんたもご苦労だね、高見原にいたんだろう?」

「能力フルスロットルで来た…着いたと同時に高田さんとのジョイントで飯田さんを回収、そして爆発…少々疲れたよ」

「それもこれもこの執念深い爺さんが原因さね」

「石田さんと紫門さんには…迷惑をかけた」

「おいおい、直属の上司にはないのかよ」

「はは、そうだった…息子の面影が残る香取小隊長にも迷惑かけたね」

「だから、あんたの息子には似ても似つかねぇっての…」


そこの全員が笑っていた、とても柔らかく何かを願う様に。それもそうだろう、高田と飯田の身体は既に限界を超えていたのかボロボロと崩れ、形を保てなくなり始めているのだから。


「トシさん…目的は達しましたか?」

「ああ、真治とみんなが協力してくれたから…上手く行ったよ」

「そうか…上手く行ったか。皆…悩みなく、将来の夢に…未来は…」


崩れ砂へと変わってしまう高田、飯田は唇を少し噛み一息吐く。それを見ていた香取は、いつものように自然な感じで話かける。


「爺さん…どうしてほしい?」

「どうして欲しいって?そりゃ、見送って欲しいさ。身体もこれだからね、さっきの自爆する為の残りのエネルギーがあるから持っているが…もう、そろそろだ。ああ、未練があると言ったら仕留め損ねた奴…どうなった?最後、転移門が何とか言ってたが…」

「それは大丈夫だ…、風文の奴が量子通信機の向かう先へヤツを向かわせたからな…ここで出会わなかったから、多分な」

「大隊長が手を回しているのなら安心ですな…ああ、安心しました。…これで、私も…妻の下へ、形見は孫に…それだけが、心残りだった…杏里、約束は果たし…」


そこまで言って限界だったのか、飯田は砂へと変わっていく。その姿を見た全員は、胸に手を当て黙祷をする。


「偉大な先人に」

「勇敢な戦士に」

「我らが仲間に」


一分ほどの黙祷の後、香取は砂の中から歪な輪を回収すると…紫門が何かを見ている事に気付く。それは抉れたように何もなくなっている研究所跡。


「紫門さん?」

「ああ、今行く…」


何か引っ掛かる事があるのかと香取は声をかけたが、紫門は何も無かったかのようにそこに背を向ける。


「さて、私達は温泉宿に行くよ…元々そう言う予定だからね」

「…婆さん、俺も言っていいか? ちょいと酒を浴びるように飲みたくてね、弔い酒さ」

「…自分の金なら勝手にしな!!」

「香取さん、ちょっと涙声じゃないですか?」

「ちげーよ、爺さん達とは生前に散々話し合ったんだ…まさかこんな終り方とは思わなかったけどな」


少し涙がにじむ三人を追いながら紫門は、何かを思い出そうとして何度も爆心地を見ていた。


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