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いつもの日々に  作者: ルウ
副話 第三部隊
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205/209

炎獄

燃え盛る炎、室内の為か充満してきた煙と熱で呼吸が上手くいかない。炎に囲まれた場所に潜んでいるせいか、身体がジリジリと焼かれる。だが、飯田は動くことは出来ない。


「焼け死んだか?…ちっ、俺の能力は攻撃には使えるがこういう時には使えんな…」


相手が導士系の能力者で助かった、識者系の能力だったらすぐに居場所がバレていただろう。とは言え、このままだとジリ貧で能力者と言えどもこんがりローストになりかねない。


「長い人生だけど、焼き魚の気分を味わうのは初めてだなぁ…っ!!」


燃える炎の音で聞こえない程の呟き。見つかるはずがない程だったのに、突然熱線が頭を屈めた上を掠める。

ゆっくりと男、日照り神と称する山崎は視線で一瞥するだけで動かない。

炎の中に紛れながら飯田は疑問が浮かぶ。

何故攻撃が先で、その後で動くのではなく見るだけだったのか?

考えられるのは自動攻撃タイプか、反射攻撃タイプかだ。どちらも似たような攻撃方法なのだが、内容は違う。自動攻撃の方は能力の中に自動攻撃系のプログラムが入っているタイプ、この場合はそのプログラムだけで処理するので能力者本人にはその情報が伝わらないか遅れる事が多い。反射攻撃のタイプでは能力自体が反射的に攻撃しているので、能力者自身が気付くのが前提になっている。

という事は、あの男は自動攻撃タイプか?と考えるが…あの場から動かない事は疑問が尽きない。

何故だと飯田がその謎を解こうと、山崎を炎の中から観察する。数秒ほど観察していたが何もおかしな所は…と思っていた時に、ある事に気付く。それは山崎の足元だ、彼の50cm周囲に炎がないのだ。


「奴の周りだけ火がない?いや、外側に流れるように空気が渦を巻いている…成程な」


恐らくは熱対流を作り出し、熱を遮断もしくは減衰させているのだろう。要するに動かないのではなく、動けないのだ。そうと仮定して攻略法を考えるとまだ解らない事がある。

それを知るために飯田は炎の中を動く、励起法を起動して結晶化が進んでいるからと言ってもこの高熱の中で動き回るのは少々きついモノではあるが…これが最後だと気合を入れる。

まずはと飯田は両手を使い胸の前で両手の親指を中に入れてこぶしを握り、左手の人さし指を立ててそれを右手で包み込むように握る拳印を結ぶ。効果は『護身』。本来は身体能力を瞬間で爆発的に引き上げる儀式拳印だが、風文から教わった裏技で自身を気配ごと溶け込ませ姿を隠す効果を出している。この印を結び励起法を行うと、数秒だけ相手から感知されなくなる。


「ノウマク・サンマンダ・ヴァサラダン・ハン」


それから流れるように拳印を組み直す、両手で指を組んで左右の人差し指を立てて合わせ、親指で薬指の脇を押さえる不動明王の拳印で唱えるのは火を防ぐ儀式だ。結晶化はさらに進んだが構う事は無い、これで下地は出来た…後は歯車を回す様に組み上げるだけだ。


「何、時計程に複雑にはならん…」




飯田は他の隊員同様に、戦闘に使えるであろう色々な儀式を伝授されていた。例えば坂崎が使っていた効果拡大させる儀式や、本編には出してはいなかったが島田が草を燃やす時に使った狼煙用の儀式もそうだ。

中でも飯田は他の四人とは違い識者系の能力者の為に、大隊長から数種類の儀式を授けられていた。

一つ、拳印を使い周囲の神域の性質を変えて、隠形の効果を与える儀式。

二つ、励起法を使いながらマントラを唱え、特定の性質を自身に付与する儀式。

そして三つ目は。


「真治、能力アシスト頼むよ…」


飯田の口元に空いていた空間の穴、その向こう側にいる高田に能力でアシストを頼むと別の拳印を組む。拳印の名は愛染明王。


「オン・マカラギャ・バゾロウシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク」


マントラを唱え組んだ印を離すと、手と手を繋ぐような仄かに光る矢が現れる。飯田は弓を構える様に矢を持った。


「矢よ、燎原の火を駆け抜けろ!!」


手を離すと仄かに光る矢が、流星の様に走る。光の矢は山崎に迫る軌道を取るかと思いきや、明後日の方向へと突き進む。その動きに山崎の能力が反応し、熱線が迎え撃つ。


「真治」

「はい…」


相打ちする直前、光の矢は突如園生型を消す。種は簡単、高田が能力を使い山崎の周りを点滅しながら回る様に飛ばしていたのだ。

点滅するように飛ぶ矢、それを迎撃する様に走る熱線。山崎は突然に自動起動する自身の能力に眉を顰める。彼の目には炎に身を潜め、飯田が周囲を走り回っている様に見えているだろう。


「2…4…8、同時に起動するのは8。数が増えるとそれだけ隙ができやすい…真治頼む」


儀式『変転の天弓』、光の矢を作り出し使用者の意思で操作できるインド密教系儀式だ。飯田はそれを攻撃の為ではなく、囮になる様に使った。それを囮にする事で、相手の熱線がどれだけ迎撃できるのか?気付くまでのタイムラグはどれくらいなのか?を計っていたのだ。

一通り見て勝機を見つけたのか、飯田は懐に入れた銀のペンダントを高田の能力で作ったワームホームに放り込む。


「娘の形見だ…、孫にやってくれと頼んでくれ。これで最後…ちぃと無茶するから、そっちで預かってくれ」

『おい爺さん!!無茶するな!!』

「なんだい小隊長、来とったんかい」

『大隊長の指示だ…』

「後詰めをよこしてくれるなんて…大隊長には感謝だ。なおさら思い残す事は無い…遺品頼むよ」

『爺さん?おい!!爺さん!!』


そこまで言うと飯田は無言になって、炎の海に潜みながら部屋の一番奥にある資材管理用PCの下にまで戻る。モニターは炎によって既に消えており接続していた端末は辛うじて原形を保っていた。

飯田は耳に接続した端末を再起動する。


「大隊長、まだ繋がっていますか?」

『辛うじてな、だが所詮は先行モデルだ…過負荷試験中だったから丁度良かったさ』

「それは良かったですな」

『…今ならまだ間に合う。飯田、撤退できるぞ?』

「それだけは出来ません。もうお知りでしょうが坂崎・立科・島は逝きました…私も高田も、そろそろです。…私の為について来て、先に逝ったあいつ等に遅いぞって言われたくないんですわ」

『………』

「それに、我々の隊規『相手に痕跡も見せずに行う』の為にも…禁じ手を使わせてもらいます」

『決意は変わらないのか…』

「予想されていましたか…流石、我らの大隊長。決意は…当の昔です」


通信の向こうで風文が少しだけ息を吞み…吐いた。


『ならば行け。我ら第三部隊の輝かしき先駆けよ。その身をもって、打倒せよ!!』

「了解しました!!この身をもって、この施設すべてを消し去りましょう!!さらば、いざさらば!!」


通信を切ると同時に、再び励起法を最大稼働。身を屈めたと同時に体中の壊れかけの発条でいまだ光の矢を迎撃している山崎の下へ肉薄する。


「なにっ!?ここに来て近接だと!?」

「中距離が得意そうだからね」

「舐めるな!!」


両手に持ったナイフを振るう。左はナックルガード付きのナイフを逆手に持ち、右手は日本刀の様な滑りのある刀身の短刀。


「がっ、この俺に近接で圧倒するとは…爺さん、あんた識者だな!!」


山崎は取り出したナイフ一本と、自動制御から切り替えた熱線を使い飯田を迎撃する。交差するナイフ、死角から放たれる熱線、それを見ずに避けると同時に膝を山崎に叩き込む。

その衝撃を利用して距離を取ろうとするも、飯田に踏み込まれて離せない。


「そう言うあんたは見たまんまの導士じゃないか。識者相手に接近戦は命とりだぞ?」

「そんなの…解ってるさ」


追い詰めているのに相手に焦りがない、むしろ余裕がある。相手の口元が嗤っているのに気付いた。だが、その気づきは少し遅かった、ほんの数コンマ早く気付けば何とかなっただろうが、もうすでに相手の動きを止める為に左のナイフを振り抜き相手のナイフと交差した。

相手の動きを制限するという事は、自分の動きも制限する場合がある。ナイフ術を教えてくれた疾薙紫門の言葉を思い出した時は手遅れだった。


「バーカ、それは対応済みだよ。噴き上がれ紅刃!!」


地割れから吹き上がるマグマの様に赤い光が走る。左手と右足が焼き切られ、飯田は炎の海へと倒れた。


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