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いつもの日々に  作者: ルウ
副話 第三部隊
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204/209

煙り沁みる

能力者戦闘において必要な事。

一つ、三竦みになっている系統を理解して備える事。これは以前にも話した能力者の三系統、『識者』『導士』『法師』の三竦みの事となる、ただこれは絶対出ない為に苦手系統に当たった場合の事を考えて鍛錬する必要があるという事だ。

二つ、励起法とは能力者戦闘の基礎であり深度が高度になるほど固有能力の強度が強くなる。これは今まで話した事は無いが、固有能力は励起法の出力に依存しており、低出力の励起法を使った時の固有能力は高出力の励起法を使う神域結界に阻まれ固有能力の効果が削がれる。

三つ、同系統の能力の場合はその系統が持つ性質によって強さが変わる。同系統の能力者戦闘に昔からある口伝がある。識者同士では、洞察が命運を分ける。導士同士では、能力の出力で決まる。法師同士では、空間支配の取り合いで統べる。


そう、導士は基本的に能力の出力で強さが決まるのだ。




ギャリギャリと削れ何か硬いモノが砕ける音がその場に響き渡る。健と高田の目がその音の方向を見れば、二人を護る様に第三部隊の第66小隊長・香取幸也が立っていた。

突然の登場に二人は驚いて目を見開いていたが、それ以上に驚いていたのはこの状況を作り出した巫儀型信だ。


「きっ貴様は、香取家の落ちこぼれか!!」

「そう言うお前は、巫儀の面汚し?いや裏切り者だったか?」

「ぎ、貴様!!香取家に生まれて家の伝統儀式すらも受け継がれない落ちこぼれが、由緒ある神官の家系の私を蔑むか!!命をもって償え!!」


香取は狩る口を叩きながら、めんどくさい奴が相手になったなとゲッソリとした表情で手甲を締め直した。

香取幸也はとある道場を経営する一家の三男坊だった。男だけの三人兄弟の末っ子、道場を継ぐ予定はなかったが兄弟全員『香取神道流』を教えられていた。(この世界においての香取神道流は現実世界の『天真正伝香取神道流』と同じものとして扱いますが能力者が使う武術とは関係がない人が作り上げた純粋な武術です)

しかし彼は、その武術を修めることが出来なかった。正確には敵性が無く形としては出来るが武術として振るう事は上手くなかった。その所為か彼は、道場に顔をあまり顔を出す事もなくサボりはじめ、学校のあまり評判の良くない仲間とつるみはじめ、高校卒業と同時に家出したという過去がある。

それ故の落ちこぼれと言うレッテルだ。

実の所、香取の家出は彼の親との話し合いの末に行った事なのだが。


「由緒ある家で血筋が良いのは知っているが…個人としては糞みてぇな性格な奴のお前は面汚しだしな?」

「この私を何度も愚弄するか!!」

「自覚ないの!?おめでたい頭してんなぁ?」


お互いに罵倒、その返礼は無言で能力を起動し攻撃する事だ。型信は透明な刃を放ち香取は手を包み込むような結晶が高速回転して激突する。


「貴様も由緒ある香取神道流を受け継ぐ一族の癖に、何だその能力は!!」

「何だって、ただのチェーンソー擬きだが?」

「だから!!なんで!!剣術の家系がそんな下品な武器なんだ!!」


打ち合う能力、刃が香取の腕に当たる度に砕ける。殺し合う二人を傍から見ている健と高田は茫然としていた。それもそうだろう、さっきまでの雰囲気と違って少し緩んだ空気になっていたからだ。その風景を見て健は少し、ほんの少しだけ怒りが抜けた。


「…なんでぃ」

「健さん、どうかしましたか?」

「なんでもねぇよ…敵の事は知るもんじゃねぇなって…思っただけさ」


高田は良く解らないなと首を傾げるが、健は悪態を吐いた後には何も言わずに励起法の深度を最大で維持する。


「健さん!!今の状態で、傷が深い時に励起法を最大に使ったら結晶化が進んでしまう!!」

「しかたねぇさ。だけどな?高田、俺らは何をしにここに来た?一矢報いに来たんだろうが…残り少ない命、今燃やさずにいつやるんだ?」


周囲に散らされた煙を操り一か所に集める。能力込みの戦闘訓練で散々叩き込まれた、能力戦闘の基礎を思い出す。能力には優位がある事、励起法の深度が勝敗の基礎になる事、そして自分の様な導士系能力者は高い出力をどれだけ維持できるかがカギになる事。

見た感じで今倒すべき相手の励起法の出力は恐らくは深度5から6、これは戦闘時に安定して使える励起法の深度が5から6と言っている香取と互角に戦っているからの判断だ。


「いつもの俺らなら深度2、頑張っても深度3。だが結晶化、身体が『賢者の石』の結晶に変わりつつある俺らなら出力が深度6に近づける。高田、力こそパワーってな」

「…今の若者に毒されてますよ…健さん」


最大出力で励起法を行い、身体が段々結晶化し始める。抉れた脇腹の傷が緋色が混じった鈍色に輝き始め、血の代わりに細かい結晶が零れ落ちる。

身体に負担がかかっているが歯を食いしばり能力を行使する、そのお陰か…戦っている二人の周囲を煙が渦を巻いていた。


「ぬっ」

「汚名を流し過ぎて、顔が汚れて周りが見えなくなってんじゃねーか。だから、一矢報われんだ…よっ!!」


気付いた時ににはも遅かった、香取が透明な刃を蹴って破壊しながら後ろに跳ぶ。同時に周囲に渦巻く煙が一瞬で狭まり型信を締め上げる。


「ぐおっ。下級能力者の分際で由緒正しい私の身体をっ」

「ハイハイ…もー良いから黙っとけ、永遠にな!!」


後ろに跳んだ香取が、弾む様に前に跳び胴を切り裂く様に蹴り薙いだ。


「この…下郎、が…」

「もういい、文句はお前の本体に言っておく…大人しく眠っとけ」

「………」


肩を借りて健が近づけば、そこには身体を腹で両断された木人形が倒れていた。


「隊長…これは?」

「大隊長があんた等を復讐の戦いに連れて行かなかった理由の一つだ。以前は死人を生き返らせ駒にする巫儀の使う手だったが…最近は木人形の上に儀式で人に見せて、抽出した人間の精神を宿らせ使っているらしい」

「てぇ事は、こいつは元々ロボットみたいなモノだった?と言う認識でいいのかい?」

「…ロボットより酷いよ。人間の精神を抽出したって言ったろ?人間の一部分を抽出した所為か、精神が歪んでいるんだ」

「それでか…」


以前あった悲しい出来事を思い出し、それの原因がその抽出にあったのかと健は納得する。

納得はするが、被害にあった同僚の事を考えるととりあえずは一矢報いた…そう思いたかった。


「まあ、いい。偽物だとしても…仇は討った。とりあえずは…これで良い」

「おいっ島田の爺さん!!しっかりしろ!!」

「無茶…言うな。見ろよ指先から…崩れていく、こんな爺さんが幻想的に死ぬとか…笑えらぁ」

「健さん…」


健はホッと力が抜けていくのに身体をゆだねる、指先からキラキラと輝く砂に変わるのを見て皮肉気に笑う。


「真治…トシさんを頼むぞ。あの人には…色々世話になったからなぁ…頼むよ。隊長、そんな顔するな…人はいつか死ぬ…俺らが先だったって事だ」

「爺さん」

「あんたの所為じゃない…さ。一つだけ…頼む、俺らの復讐を…完遂してくれ。それが、俺らへの…手向けだ」

「…ああ、解ったよ。爺さん、安心してくれ」

「はぁ、良かった…安心した…」


健はそこまで言うと、ゆっくりと目を閉じ砕けて崩れる。

そんな中、近づいてくる二人の気配。顔を向ければ恵美とアレクがこちらに歩いて来ていた。


「何だい湿っぽいね、健さんも逝ったのかい。坊主、しんみりするのはまだ早いよ」

「ああ、解ってるさ…飯田の爺さんが、まだ戦ってる」


そう言うとその場の全員が岩山の方を仰ぎ見た。


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