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いつもの日々に  作者: ルウ
副話 第三部隊
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能力者の最期と追い詰められる鬼

身体全体に走る鈍い痛み。身体を起こそうとすると関節がパリパリと割れる様な音をたてる。痛みに耐えながら起き上がると右足がポッキリと折れている。足をスラックスの上から触ると、足は完全に結晶化して膝の辺りは砕けていた。身体のほとんどが結晶化している、もう一度戦闘…いや励起法を低深度でも使うと終わりだ。まあ、使わなくてもこのまま…、そんな風に考えていたら二人分の土を踏みしめる音が聞こえる。


「おー、くたばってなかったか。でもギリギリって所かねぇ」

「善三さん、こんばんは」


夜の散歩で偶然あったかのような軽い空気、善三は消えゆく自分に対しての気遣いのようなものだと苦笑する。


「はっ、せっかく手伝ってやったんだ。請求先が死んだら大損さ」

「違った、こいつただの銭ゲバだったわ。ったく、幾ばくも無い爺に恩を着せてどうするつもりだ?」

「借りを作ったまま死なれたら気分が悪いからねぇ…あと成り行きさ。それで?言い残す事はあるかい?」

「…いや、ない。伝える事はもう伝えている…いや、一つだけあった…トシさんに先に逝ってると…」

「馬鹿だね、そんな事は先に伝えておくもんさ」

「これで…生き残ったら…ダセェだろ?」

「確かにね」


段々善三の身体が固まって行く、皮膚が硬質化し結晶になる端から細かい砂のような欠片が零れ落ちていく。座って俯いている善三の表情は見えないが、辛うじて見える口元は穏やかに笑っていた。

傍らに立つ恵美はヤレヤレと溜息を吐きながら、指を頭に当てて聞く。


「これはどうするんだい?」

「…うん?ああ、大隊長…に、届けて、くれ。俺の生きた…証を託すと…」

「ふう…あいよ。あたしが大天狗に渡しとくよ」


恵美が誓えば、善三は頷くと今まで一番大きく致命的に割れる音が響く。


「燈子…舞子…、じぃじはやり切ったよ…大隊長、あの時の答えは…やっぱり、難しい…けど…解った気がしま…す」


夢の中にいるような口調で善三は永遠の眠りについた、命の火が消えたと同時に善三の身体が一気に崩れ…鈍色の砂へと変わり空気に溶けるように消えていく。


「はんっ、大隊長の想い通りに居れば少しは悩まず長生き出来たのに…死に急ぐなんて馬鹿だね」

「エミ…」


憎まれ口を叩く恵美はしゃがむと、抜け殻のようなボロボロの服の上にある物をとった。


「それは?」

「結晶化する程に能力を使い続けた能力者の遺骸から出る能力者の根幹。他所じゃ『ワイズマンクラウン』とか『サピエンスコローナ』、日本じゃ『叡智の冠』とか言われてる…賢者の石の結晶体さ」


そう言って掲げるようにアレクに見せたのは、赤く染まった冠にも似た金属光沢を持つ輪だった。それは血の色を含んだ賢者の石の結晶体、酸化していない血液のせいか『薔薇色の鮮やかな赤色』に輝いていた。


「あんな爺でも綺麗に輝くとか…笑えるねぇ」


恵美はクククと笑う。その時だった、飯田達が入り込んだ岩山の入り口が爆発して、震えた岩山の上部が崩れ落ちて入り口があった場所が土砂で覆われていた。


「マズいね、私の『コンパス』で内部に入る道を探しても見つからない」

「中には飯田さんと坂崎さんがいるのに、どうするの?」

「…アレク、香取の坊主に合流するよ」

「了解」




爆発が起こる少し前、坂崎危機に陥っていた。身体は満身創痍、右頬は抉れ歯茎が見え左脇腹から腹にかけては焼け焦げ、左腿はやや欠けていた。いわゆる満身創痍と言う奴だ。


「ぐっ…俺の体調が悪い上に能力の相性も悪い、何よりも…場所が悪いわ」


気を抜けばふら付きそうな身体に活を入れ、坂崎は目の前の敵を睨み付ける。睨む通路の先、暴れて砕け落ちた瓦礫の中で佇む、変身した坂崎の巨体の半分しかない細身の影。

脚は前後に開かれ両手は前に構え、手首だけがダラリと落とされた独特の構え。


「蟷螂拳使いの能力者たぁ、直線の通路で出会いたくなかったなぁ」


最初は不意打ちだった、笹崎の固有能力『鬼・玄』による身体の大きな強化と硬度強化により武装した集団を蹴散らしていた時だ。強化していた腕を引っ掛けられ、体勢を崩されて脇腹に攻撃を食らったのだ。

突然の事に面食らった坂崎は、体勢を立て直すべく踏ん張る。しかしその力を逆に利用され、前へとたたらを踏む。そのせいで身体が前屈みになった所を拳で殴り上げられたのだ。

一連の流れとこの攻撃の仕方から以前、第三部隊の訓練に紛れた水上誠一と言う青年の攻撃を思い出し、拳法使いそれも蟷螂拳法だと見当をつけた。

とは言え彼とは違い、目の前にいる細身の男が使う蟷螂拳は完全に真逆だ。


「一撃必殺とは違う、連環ってやつかい…」


蟷螂拳の特徴は相手を崩し絡め連続して取ると言う連環、これを流れる様な組み立てで攻撃を加える(連環)。しかも攻撃リズムが早い、こちらが一撃を出す瞬間に三撃加えられる。一撃の威力はこちらが遥かに高くても、当たらなければ意味がない。

ならばこの場合、出来る事はまずは牽制と攻撃をする。


「ハァッ!!」


左正拳、衝撃波を伴い放たれたそれは砂埃を舞い上げ細身の男に迫る。しかし男はフラリと揺れるように斜め前へと避けると、次の瞬間には坂崎の拳に手をかけて捉えていた。それに追随するように坂崎は右正拳突きを放とうとするが、引こうとする左肘を内側から打たれ腕を畳まれる。その勢いを利用したのか、右正拳突きの出だしを潰す様に男の肩がぶち当たる。


「がっ」


靠(こう)肩や背中を使った体当たりだ、これも訓練場で青年に喰らった。だからこそ耐えられた、だが男の攻撃は終わらない。体当たりからの崩れた体に足払いを受け…身体が一瞬宙に浮く。


「うっ、うおおおおおぉぉ!!」


坂崎は必死の形相で、空中で身体を捻り、床を蹴る。何故ならば男が、蟷螂の鎌を構えたのだ。あの構えはマズい、遠距離であの攻撃を食らって強化されたこの身体が傷付くような攻撃だったのだ。

その攻撃は単純だ、鎌のような形にした拳を励起法で強化した腕で前に打つだけだ。

ただしその動きは鞭のようにしなり、音速を越え空気を急激に圧縮し鎌の様な指先は高熱を帯びた衝撃波が飛んでくる。

坂崎はそれをギリギリで避けたが、圧縮された超高熱を伴う衝撃波は身体を切り裂く様に焼いた。

自分で床を蹴って、ピンボールの様に壁や天井に身体を跳ねさせて男との距離を取った。身体を砂埃まみれにしながら立ち上がる、相手の男が動いていないのを確認して一連の流れでちょっと勝てないなと歯噛みする。明らかに戦闘経験が違いすぎる。どう考えても相手は凄腕の戦闘職、こちらは子供相手に空手を教えていた遅咲きの能力者だ。


「だとしたら、俺が出来るのは捨て身しかないかねぇ」


他の奴等も同じ様にやってるだろうと確信しながら小さな声で呟くと、励起法の深度を限界まで引き上げた。前を見ると立っていた男が、ハァと肩を落として目を鋭くして手で来いとジェスチャーしている。

どうも捨て身になる事も読まれている。詰んでるなぁ…しかし、やらない理由はないと坂崎は腹をくくった時に思い出す。




「なあ、あんた…えーっと」

「誠一です、水上誠一。呼び方は何でもいいですよ?」

「ああ。じゃあ、誠一の坊主…ちょっと教えて欲しいんだが?」


高見原郊外にある訓練施設で、坂崎は少し困った顔で何度も同じ動作を行う青年に尋ねる。


「さっきから同じ動きしているが…もしかしてそれは演武みたいなものか?」

「えっ…うーん、ちょっと違いますかね。確か日本武道において演武は精神性な物が大きいと聞いてます。どちらかと言えば型に近いですね」

「だよな、いや良く解らん奴から言わせればそう見えるみたいなんだ」

「はは、ちょっと『儀式打ち』は特殊な動きしてますからね」


誠一は訓練場の片隅で儀式打ちのしてたらしい、その姿をみて坂崎は妙な動きだと思って周りの人間の疑問と一緒に話しかけたらしい。


「『儀式打ち』?」

「ああ、武道の型に儀式が入った技術ですよ。…たしか貴方達もそれやってませんでした?」

「…まさか、あれか!?」

「気づいてなかったんですか…」


空手系儀式を教えられていた坂崎は、自分が教えて貰っていたものがそう言うモノだと初めて知って驚愕していた。


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