反射とミサゴ
先手必勝と打ち出した砲弾。善三は打ち出すたびに身体の結晶化が進んでいた。その為に打ち出した時に進んだ結晶化が、膝を侵食した時に岩の上に立つ善三の体勢が崩れ膝をつかせた。それが偶然にも善三の命を救う。
善三が放った砲弾が、威力が変わらず善三の頭を狙って跳ね返ったのだ。体勢を崩し膝をついた為に、その砲弾は善三の頭があった場所を通り過ぎただけだったが。
「ぐくっ、なんでぇ…俺の弾がそのまま返ってきた?」
「ちっ、外した。今ので終わってれば、眠れたのに…」
岩の上で膝をつき能力で砲弾を高速で回しながら、善三は相手の能力を予想してこりゃマズいなと心の中で悪態を吐く。
予想としては恐らく、『反転』か『反射』もしくは『キャッチ・アンド・リリース』…大穴で『空間歪曲』か高田と同じ『ワームホール』。
色々と考えたが、どの能力だとしても自分とは相性が悪すぎる。なにせ自分の使える攻撃方法は、高速回転させて音速で撃ち出し敵を葬るだけだ。
今さっき上げた能力だとしたら、どれもそれは自分の能力の天敵になる。
「どこまでが能力の範囲かが解らないが、俺の攻撃が効かない時点で詰んだな」
結晶化に伴う身体に走る鈍い鈍痛に苛まれながら、善三は冷や汗を流しながら立ち上がる。
「詰んだが…諦めるとは、別だ。…東西東西お立合い!!この場の皆々ご照覧!!一世一代のこの舞台!!いざ始まる晴れ舞台!!これなるは豊前の御山を守る大天狗・豊前坊より授かりし、神威宿りし石礫!!一つ投げれば邪を払い!!二つ投げれば魔を砕く!!いざいざ、ご覧あれ!!」
自分を鼓舞する為、大好きな歌舞伎の大見得を切る様に立ち上がる。
此処にいるのは。
命を懸けるのは。
大義の為じゃない、かといって復讐でもない。
仲間の為だ。
今でも思い出す、最初の面接の時に大隊長にあった時の事だ。
「立科善三さんか…老齢で覚醒した能力者ね…大隈ファイナンスからの紹介…ねぇ。」
夕日を背に長机の向こうにいる男は、何もかもを見通す様な微笑で善三を見ていた。その目を見て能力者の予知が働いたのか、善三はこの時点でバレていると確信し背中に冷や汗が流れる。
大隊長は気付いているにも拘らず、微笑を浮かべたまま話を続ける。
「あなた何の為にこの仕事に?」
「え、ああ、そうだな…金、かな?」
「ククッ、成程成程」
妙な圧迫に面接の時に聞かれる為に作ったバックストーリーなんて、全部忘れていたし動揺で妙なことを口走ってしまう。
「何か問題でも?」
「いやなに、貴方も確信していると思うが…解るでしょう?」
「いえ?…良く解りません」
「そうか?…いいでしょう、あなたは今日から我らの仲間だ。三階の人事部で契約書を貰って書いたら提出してくれ」
「ああ、はい」
こちらがスパイだと気付いている上で懐に入れて雇うなんて、この人は何を考えているんだろう?と善三は意味が解らなくなって茫然としてしまった。
「…どうした?鳩が豆鉄砲喰らった様な顔して」
「…良いんですか?」
「ん?ああ、いいさ。これくらいでうちの隊はどうにもならん、その様に我々が知恵を寄せ合わせて作ったんだ。それに…いや、これ以上は無粋だな。くくく、今に分るさ」
そう言いながら部屋からの退出を促された善三は、それから何が何だか分らないまま隊に入った。それからの苦労は途轍もないものだった、飯田達と出会い・死ぬような訓練を行い・上司への愚痴を言い合い笑い合い…そして。
「あいつ等の為なら死んでも良いって、仲間の行く道最後の路を作るために…この俺の最後の大一番!!目にもの見せててくれよう!!」
善三は結晶化して崩れかけている足で無理あり立ち上がる。足首の所で縛ったズボンの中は、パラパラと破片が溜まり始めている筈だ。
能力は最大、身体の結晶化が進むが構いはしない。周囲の石や物が浮き高速回転させ、機銃の様に連続で撃ち出し始める。
相手もそれに対抗するように、擦れをすべて跳ね返してきていた。飯田は跳ね返してくるを前提に、砲弾を同じ軌道で時間差を付けながら二発づつ撃ち出していた。それにより一発目の為が跳ね返されてきたのを、二発目が相殺しているのだ。
これで相手の能力は大雑把に反射と仮定すると、相手は恐らく同じ導士系だが反射の能力はとても計算が難しいのだろう、効果範囲が思った以上に狭い。相殺している距離と砲弾の大まかなスピードから考えると、効果範囲…すなわち纏う神域は1m強。
善三がこれに対抗できる方法は一つだけ、励起法を最大で近づき神域を重ね合わせて相手の神域を上回れればいい事だ。不幸なのか幸いなのかは解らないが、結晶化が進んで励起法の深度が秒単位で引き上がって行くのを感じている今なら出来るのは確信できている。
攻撃しながらで危険でこっちが殺られる可能性が高い、生憎時間がない善三は一か八かで突っ込む覚悟が決まりそうになった…所で目の前に、放物線を描きワイヤレスイヤホンが落ちてきた。
思わず手に取って確認すると電源が入っている…まさかと耳に入れて見ると耳に、もう聞けなくなるなと感じていた憎たらしい声が聞こえた。
『よお爺さん、生きてるかい?』
最近は機会が無くて顔を合せなかった声だ。
「石田!!なんで此処にいるんだ!?」
『はっ、うちのアレクと温泉と洒落込もうと思ってたのに、香取の坊主が足がないってんで送って来たのさ。あんた達はそのついで。あたし達はこの後に温泉で一杯が待っているんだ…さっさと終わらせるよ』
「は…相変わらずの強引さだ。だがっいける!!」
香取が追いかけてくることは予想していた、だが石田の介入は予想していなかった。しかし、これで相打ちしかないと思っていた状況が何と中る。
「目の前の厄介な奴はあたし達が牽制しておく。だから、あんたはまずは隠れている奴を何とかしな」
「了解」
即興となる作戦に聞こえるが、第三部隊初期から関わり合いがある石田恵美とは何度も訓練場だが共闘している。年相応の経験もあるが、お互いに何をするかは解る。
だから善三は迷わず行動を起こす、残存する警備をすべて始末する為に目の前の敵以外に弾を打ち出す。
遮蔽物に隠れていた武装した警備員達に弾が向かう、普通は遮蔽物で阻まれるが回転している弾は野球の変化球の様に曲がり遮蔽物に隠れた者達を一掃する。
後はと一番厄介だと思われる男を見れば…血だらけになっていた。
「うえっ?」
『はっ、能力者と言えども認知外からの攻撃は対処できない。善三あんたとは年季が違うんだよ年季が』
よく見ると男の周りに銃弾が走り、その銃弾が何かに当たり跳ね返る様に男を襲っていたのだ。
善三はそれには見覚えがあった。能力者専用狙撃銃『Arcana』と専用弾『Resilio』による、跳弾とその弾自身にぶつけて跳弾を重ねる弾幕。
「『コンパス』石田と『ラインメーカー』のアレクが行う跳弾結界…何度見ても恐ろしい」
狙撃銃にしては連射が出来る上に能力者の励起波をエネルギーとして動く『儀式銃』、弾も第三部隊が採用している『輪蔵弾』をベースにした専用弾だ。打ち出した弾で跳弾するのも恐ろしいが、一番の恐ろしさはその弾が励起法を使った能力者に傷を負わせることだ。
「しかし相手もさる事ながらか、致命傷を避けてやがる…」
『避けてやがるじゃないんだよ!!こっちは弾にも限度があるんだ!!さっさと仕留めな!!』
そう言われてボーっと跳弾結界を見ていた善三は、ハッと気づき励起法を再び最大まで引き上げる。そうだった、こいつは俺の戦いだ…若者の戦いに感心して見ている場合じゃない。自分達が始めた戦いだ、だからこの一撃で有終の美を飾るのだ。
そこまで考えて善三は結晶化し崩れ始める身体を無理やり動かし跳んだ。
「これが俺の奥の手!!」
善三の奥の手。それは自分自身の体を高速回転させ、そのスピードで相手を蹴りぬくと言う荒業だ。斜めに跳び上がり、数ヶ所の回転軸を経由し音速に近いスピードで急降下する。
「喰らえぇぇぇ!!『鶚蹴り』!!」
跳弾結界に気を取られていた男は、善三が跳んだ時点で気付いていた。だが気付いた時点でも遅い距離もそんなに離れていない状況で音速に近いスピード、跳弾の結界の所為で避ける事は無理だと判断した男は能力で迎撃をするつもりだったが…。
「何だとっ!?」
男の能力で反射して一瞬拮抗したが、善三の神域と重なった時点で男の神域が塗り替えられて、その力は減衰し拮抗が破れ…男の身体の中心を善三の結晶化した足が貫いた。
「………これで、眠れる、か」
男は口から血を吐きながら安心したように後ろに倒れると、太腿まで貫いた善三の足がグシャリと折れた。




