第七十九射目
オスリア大陸の南、特にここシンフォニア王国は比較的気候が安定しており、一年通してもても過ごしやすい。
冬の十日目となって寒さは感じるものの、耐えられない程では無い。
「と言っても、普通に寒いんだよね」
「まぁ、冬だからね」
僕とフランは昼食後にテラスで食後の紅茶を飲んでいる。
先日採れた新鮮な蜂蜜を使ったお菓子と少し濃い目に淹れてもらった紅茶を口に運びながら、海を眺めている。
「マロさんとの話はまとまったの?」
「ようやく形が見えてきたよ。ほら、これ。今朝の新聞」
フランに渡した新聞(新聞と言っても裏表に手書きの文字のみの紙)の一面に『ホークアイ家秘伝の蜂蜜が数量限定で予約販売開始!』の見出しがでかでかと書いてある。
マロさんが多少脚色しているが、
『ホークアイ侯爵家が携わるホークアイ研究開発所で極秘に進められていた人の手による甘味蜂の飼育。それにより、天然物には味や風味は劣るものの、今後、超高級品である蜂蜜が以前よりも安価で購入が可能に。採れる量には限りがあるので、身分・金額関係無く予約した順に随時販売予定。また、その蜂蜜を使った蜂蜜酒も同時に製造予定との事なので続報に期待』
と、僕がマロさんに伝えた事がほぼそのまま書いてある。
勿論、天然物に劣るどころか超える様な品質だし、量も投げ売り出来るまではいかないけど、安定して販売出来る見込みもあるが、そこは流通制限を掛けて、市場を荒らさないように考慮した。
値段も安いとは言え、大瓶になれば銀貨五十枚はするし、蜂蜜酒も濃度によるが銀貨十枚はするから決して安くはない。
今後の売れ行きと開発次第では、貴族以外にも安価で販売出来るように蜂蜜の濃度を下げた商品も展開予定。
「とりあえず蜂蜜関連は一段落したし、隼と隼の爪の僕専用は完成。今後配備する用は調整も概ね終了してる。これで研究開発所に関しては経過報告を受けて、問題があればその都度対応で大丈夫かな」
「アリアの防衛は遠見の魔道具が完成してそれを装着した弩砲の配備も完了してるから問題無いよ」
「ありがとう、助かってるよ」
「これくらいしないと。だって私はユウリの婚約者だもん」
居間のフランはホークアイ家に任されたアリアの防衛任務の為に動いてもらっている。
ある日突然『私にも仕事を頂戴!』と言ってきた時は困ったが、そこは流石辺境伯令嬢、人との接し方や動かし方は新米貴族の僕より何枚も上手で、僕がお願いした事を完璧にこなしてくれている。
屋敷の場所は丘の上だが、そこから更に進むと海に面したは断崖絶壁になっている。
そこに景観を崩さない程度の低めの石壁を設置して、そこへ魔道具付きの弩砲を配備。
しかもそれだけでは終わらない。
石壁の裏側の数カ所と我が家の地下一階から伸びる蟻の巣状の通路を使えば、海側の岩壁に造られた各小部屋に繋がっており、そこにも各二門ずつ配置してある。
仮に敵船が近づいてきたら、本来何も無い筈の壁からいきなり巨大な矢が降り注ぐ寸法だ。
勿論防御面の強化も怠らず、通路から各部屋までは防御刻印を刻まれた鉄の通路になっているのと障壁の魔道具が展開しているので、最悪崖が吹き飛ばされても、通路だけは残る仕組みだ。
ここまでしたところで、『僕の屋敷とその地下から海側一帯は本当に要塞化してないか?』と思ったがもう遅い。
「これで大体は僕らが居なくても大丈夫になったかな」
「そうだね。これでやっと行けるんだね」
「ノイさんとウィルにも許可を貰ったし、明日にでも出発出来るよ」
「じゃあ明日の朝一番に向かおう!」
「例え話だったんだけど……。まぁ明日出発しようか」
「うんっ!楽しみだなぁ〜」
ホークアイ家の立ち上げから今日までほぼ休み無く何かしらをしてきたが、それも今日で終わり。
当初の予定通り、全ての業務が僕無しで回るようにそれぞれに特化した部門分けと人選をして、担当を振り分けた。
そして今日の午前中に行った幹部会議で一部の重要案件を除く全ての権限をそれぞれの部門の長に譲渡する事で僕の仕事は最終確認と最終決議のみになり、晴れて自由の身!迄はいかないけどそこそこ時間が取れる。
それからも、フランと明日からの計画を話しながら今日一日は瞬く間に過ぎ去った。
「じゃあ行ってくるよ。ウィル、アーロン、クレア、クルト、パリス。僕が居ない間の事は任せたよ」
「お土産話待っています」
「楽しんできて下さいね」
「体調にはお気を付けて」
「やはり私も付いていきます!もし旦那様の身に……」
「いつまで言っているんだ、アーロン。こちらは気にしなく良いので、無事帰ってきて下さいね、我が息子よ」
「ありがとう、お義父さん」
皆に挨拶をして僕は屋敷から旅立つ。なんてことは無く、2週間程の冒険に行くだけだ。
アリアの港に着くと、既に護衛を連れたフランが到着していた。
「ごめん、お待たせ」
「大丈夫、私が早く着き過ぎただけだから」
「それにしてもユウリ……いや、ホークアイ侯爵。流石に護衛を一人も付けないのは如何なものかと……」
「今まで通りで大丈夫ですよ、ソーラさん」
「そうですよ、副隊長。ユウリが気にする筈無いじゃないですか」
「リック、お前はもう少し気にしろ」
「ロビンさんも。リックさんと同じ様に今まで通りでお願いします」
「侯爵閣下の御命令とあらば」
「いや、命令とかじゃ無いんですが……」
久々に会った護衛の三人と軽く談笑を交わす。
たとえ侯爵になっても以前お世話になった方々との交流を蔑ろにしてはいけない。
「ねぇ。話してないで早く行こうよー」
フラン?
今蔑ろにしてはいけないって思ったばかりなのに、空気読んで?
結局、せっかちな婚約者に急かされて、僕等は目的地に向かう為の船に乗り込んだ。
さぁ、次回からプチ冒険パートに入ります。
ユウリとフランは何をやらかしてくれるんでしょう。




